腹黒王子の愛は、激甘でした。

22話 居場所 side白流 廉

「…はぁ」

先ほどの出来事を思い出して俺はため息を一つこぼした。

優はというと

『ごめんなさい!そろそろ競技の準備あるので行ってきます!』

と急いで駆け出して行ってしまった。

それにしても…

(まさかあんな風に言われるなんて思わなかったな…)

 

『1番って1つだけじゃないと思います!』


『少なくとも私は廉先輩のすごい所、ちゃんと知ってます!』

 

頭の中で何度もリピートされる優の言葉を噛みしめる。

 * * *

今まで俺の周りには“俺自身”を見てくれる人がいなかった。

幼いころから俺の隣には颯汰という天才が居て、いつだって俺は颯汰の劣化版。

運動も、学力も、容姿も何もかもが“2番”だった。

だから、周りから俺に向けられる視線はいつだって


『副会長もすごいけど、やっぱり会長は別格だよね!』

『あんなに優秀な人と幼馴染とか副会長、ちょっと可哀想…』


なんて颯汰と比べられたり憐れまれるものばかり。

それがすごく虚しくて、悔しくて、何よりもただ悲しかった。

親すらも

『廉も颯汰君みたいに頑張りなさい!』

と言うのが口癖だった。

颯汰の両親のグループは大企業で俺の両親はそれに次ぐ企業。

だからきっと俺の両親は後継ぎになる俺に期待を込めて言ってくれていたんだろう。

けど、そんな言葉すら俺にとっては苦しくてしょうがなかった。

そしていつからか俺は“颯汰の2番手”だと自分に言い聞かせるようになった。

虚しいのも悔しいのも、悲しいのも全部気づかないふりをして。

必死に誤魔化して仕方のないことだと諦めるようになっていた。

だからこそさっきの優の言葉が、ただ嬉しかった。

『1番は1つじゃない』

その言葉が俺の心を楽にさせてくれた。

『廉先輩のすごい所、ちゃんと知ってます!』

初めて颯汰と比べることなく“俺自身”として見つめ、認めてくれた。

今まで諦めたつもりでいたけれど本当は心のどこかに隠していただけだったのかもしれない。

俺がずっと欲しかったのは“1番”なんて評価じゃなくて、


(…ただ誰かにちゃんと“俺”を見て欲しかった)


ーなんて今さらすぎるな。

こんなに単純な自分の気持ちにすら気付けなかったなんて。

ベンチの背もたれに背中を預けて、小さく息を吐いた。

「…なんで、優なんだろ」

今なお、頭からさっきの言葉が離れてくれない。

颯汰はきっと優のことが好きなんだろう。

だからこんな感情、俺が持っちゃいけないのに。

頭の中は考えることばかりでまとまらないのに、心はなぜかスッキリしている。

「ま、いいか」

気付けば、さっきより少しだけ、自然に笑えていた。

遠くから体育祭のざわめきが聞こえる。

俺は小さく息を吐いて、しっかり前を向いて1歩を踏み出した。



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