腹黒王子の愛は、激甘でした。

39話 デート

待ち合わせ場所に着いた私は、そわそわと落ち着かずに辺りを見渡していた。

(まだかな……)

少し早く来すぎたかもしれない。

そう思っていると――

「優」

後ろから名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。

振り返ると、そこには颯汰先輩が立っていた。

「颯汰先輩!」

思わずパッと顔が明るくなる。

「ごめん、待った?」

「いえ!今来たところです!」

本当は少し前からいたけど、そんなこと言えるわけもなくて。

颯汰先輩はくすっと笑った。

「それ、絶対嘘でしょ」

「ち、違います!」

慌てる私を見て、楽しそうに笑う颯汰先輩。

その笑顔を見た瞬間、

(ああ……やっぱり好きだな)

そんな気持ちが、ふわっと胸に広がった。

「じゃあ、行こっか」

「はい!」

自然に並んで歩き出す。

それだけなのに、心臓がうるさい。

(距離、近くない……?)

隣を歩く颯汰先輩との距離が、いつもより少しだけ近い気がする。

気のせいじゃない。

でも、それを意識したら負けな気がして、必死に前を向いた。

「優、どこ行きたいとかある?」

「えっ、あの、どこでも大丈夫です!」

「それ一番困るやつだよ」

少し困ったように笑う颯汰先輩。

「じゃあ、今日は僕に任せていい?」

「はい!」

即答してしまう。

そのあとで恥ずかしくなって視線を逸らすと、

「そんなに信頼されると、ちゃんとしないとね」

優しい声が降ってきた。

(……またドキドキする)

そのあと連れて行ってくれたのは、

可愛い雑貨屋さんだったり、

落ち着いたカフェだったり。

どこもすごく素敵で、

「すごい……!全部おしゃれです……!」

思わず目を輝かせてしまう。

「優、こういうの好きかなって思って」

その言葉に、胸がぎゅっとなる。

(私のこと、ちゃんと考えてくれてるんだ……)

「すごく好きです!ありがとうございます!」

嬉しくて笑うと、

颯汰先輩は少しだけ目を細めた。

「よかった」

その表情が優しくて、

思わず見とれてしまう。

(……だめだ、ほんとに)

意識しすぎて、顔が熱くなる。

カフェで隣同士に座ったときも、

メニューを一緒に見ているだけなのに、

距離が近くてドキドキしてしまう。

「優、これ好きそう」

「え、あ、本当だ……!」

顔が近い。

声も近い。

(無理……心臓もたない……!)

そんな私の様子に気づいているのかいないのか、

颯汰先輩は自然体のまま。

でも――

ふとした瞬間に視線が合うと、

少しだけ照れたように目を逸らす。

(……あれ?)

その反応に、逆にドキッとする。

(颯汰先輩も……?)

そんなことを考えていると、

不意に名前を呼ばれた。

「優」

「はい?」

顔を上げると、まっすぐ見つめられる。

その視線に、一瞬息が止まる。

「今日、どう?」

「えっ……?」

「楽しい?」

少しだけ不安そうな声。

その表情を見た瞬間、

胸がぎゅっと締めつけられた。

「すごく楽しいです!」

思わず身を乗り出して言う。

「本当に……すごく、嬉しいです」

その言葉に、颯汰先輩は少し驚いたあと、

ふっと柔らかく笑った。

「そっか」

その一言が、すごく優しくて。

(……もっと一緒にいたいな)

気づけば、そんなことを思っていた。

帰り道。

少しだけ沈む夕日。

隣を歩く颯汰先輩。

何気ない会話。

全部が特別に感じる。

ふと、

指先が触れそうになる。

(……っ)

思わず意識してしまう。

離れようとした、その瞬間――

軽く、触れた。

一瞬だけ。

ほんの一瞬。

でも、その温もりが残って、

心臓が一気に跳ね上がる。

(い、今のって……!?)

隣を見る勇気が出ない。

でも――

颯汰先輩も、何も言わないまま少しだけ歩幅を緩めた。

(……同じこと、思ってるのかな)

そう思ったら、

胸がいっぱいになった。

言葉にはしない。

でも確かにそこにある距離。

そのもどかしささえ、

今は愛おしく思えた。

「……優」

「はい?」

「また、どこか行こう」

その言葉に、

私は迷わず頷いた。

「はい!」

夕焼けの中で、

2人の影が少しだけ近づいていた。
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