腹黒王子の愛は、激甘でした。

40話 葛藤

次の日。

学校が終わって帰ろうとすると後ろから名前を呼ばれた。

「優」

聞き慣れた明るい声に振り返ると、そこには廉先輩がいた。

「あ、廉先輩!こんにちは!」

私が笑顔で挨拶すると、廉先輩は少しだけ意地悪そうに口角を上げて、

「この前のデート、どうだった?」

とさらっと聞いてきた。

「っ!?」

一瞬で顔に熱が集まる。

「え、えっと……その……」

うまく言葉が出てこなくて視線を泳がせてしまう。

そんな私を見て、廉先輩はくすっと笑った。

「そんなに照れるってことは、楽しかったんだ?」

「た、楽しかったです……!」

観念してそう答えると、廉先輩は「そっか」と優しく頷いた。

その表情はいつも通りで、明るくて、柔らかくて――

(……でも、なんでだろう)

ほんの少しだけ、どこか寂しそうに見えた気がした。

気のせいかな、と思いながらも、私はあることを思い出してカバンをゴソゴソと探る。

「あ、そうだ!廉先輩!」

「ん?」

「これ、この前のお礼です!」

私は小さな袋を差し出した。

中身は、シンプルなシャーペンとお菓子の詰め合わせ。勉強を教えてもらったお礼として、ずっと渡したいと思っていたものだ。

「勉強、いっぱい教えてくれたので……その、お礼です!」

少し照れながらそう言うと、廉先輩は一瞬だけ目を見開いた。

「……俺に?」

「はい!」

迷いなく頷くと、廉先輩はゆっくりとそれを受け取った。

袋を見つめたまま、少しの沈黙。

そして――

「……ほんと、優ってさ」

ぽつりと呟くように言う。

「え?」

顔を上げると、廉先輩はいつもの笑顔を浮かべていた。

「優しすぎでしょ」

そう言って軽く私の頭をぽんっと撫でる。

「でもありがと。普通に嬉しい」

「よかったです!」

ほっとしたように笑うと、廉先輩も「うん」と頷いた。

――その瞬間。

ほんの一瞬だけ。

廉先輩の視線が、少しだけ遠くを見るように揺れた。

(……?)

違和感を感じたけど、その理由を聞く前に廉先輩はまたいつもの調子に戻ってしまう。

「じゃあ俺、そろそろ行くね」

「あ、はい!またです!」

手を振ると、廉先輩は背を向けて歩き出した。

私はそのまま見送って、教室へと戻っていく。

* * *

side 白流 廉


(……ほんと、ずるいって)

歩きながら、俺は小さく息を吐いた。

手の中には、さっき優からもらった袋。

軽いはずなのに、やけに重く感じる。

(勉強教えたお礼って……そんな顔で渡す?普通)

あんな風にまっすぐ笑われて、

「ありがとう」なんて言われて、

嬉しくないわけがない。

むしろ――

めちゃくちゃ嬉しい。

でも、それと同時に。

胸の奥がじわっと痛む。

(……これ以上好きにさせないでよ)

苦笑がこぼれる。

分かってる。

颯汰が優のこと好きなことも。

優が颯汰と少しずつ距離を縮めてることも。

さっきの「楽しかったです」って顔を見れば、嫌でも分かる。

(応援するって決めたのは、俺なのに)

それでも。

どうしても。

心が追いつかない。

袋をぎゅっと握る。

「……ほんと、困るわ」

小さく呟いて、空を見上げた。
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