腹黒王子の愛は、激甘でした。

41話 やっぱり君じゃなきゃ  side 白流 廉

優と別れて廊下を一人で歩いていた。

窓の外はオレンジ色に染まっていて、校舎の中もどこか静かだ。

(今日は珍しく仕事が早く終わったな…)

そんなことを考えながら歩いていると、曲がり角の先から話し声が聞こえてきた。

「やっぱさ、副会長ってさ」

(……)

なんとなく足が止まる。

「普通にすごいけど、会長と比べたらさすがにね〜」

「分かる。結局2番って感じ」

「幼なじみなのにあれはちょっと可哀想じゃない?」

──ああ、またか。

聞き慣れた言葉。

何度も何度も聞いてきた声。

(別に…今さらだろ)

そう思って、そのまま通り過ぎようとした。

気にしない。

気にしないふりをする。

それが一番楽だから。

そのはずなのに──

「それ、本気で言ってるんですか?」

凛とした声が、空気を切り裂いた。

(……は?)

驚いて顔を上げると、

そこに立っていたのは――優だった。

「え、咲良さん?」

「聞こえちゃったの?」

ざわつく空気の中で、

優は一歩前に出る。

「さっきの言葉、撤回してください」

真っ直ぐで、逃げ場のない声だった。

「は?なんで?」

「事実じゃん」

その言葉に、優の表情がはっきりと変わる。

「事実じゃありません」

はっきりと、強く言い切る。

「廉先輩は“2番”なんかじゃないです」

(……なんで)

胸がざわつく。

「廉先輩がどれだけ努力してるか、知ってるんですか?」

「人のことちゃんと見もしないで、勝手に決めつけるのやめてください」

声は震えていない。

でも、その目は本気だった。

「は?なにムキになってんの?」

「関係なくない?」

空気がピリつく。

言い合いが激しくなっていく。

(……やめろって)

足が動く。

「優」

呼びながら、間に割って入った。

「大丈夫だから」

優の前に立つ。

「廉先輩…!」

振り返った優の顔は、

怒りと悔しさで少し赤くなっていた。

(……なんでそんな顔するんだよ)

「悪いけど、この話もう終わり」

軽くそう言って、その場を収める。

周りの生徒たちは気まずそうに視線を逸らして、そのまま散っていった。

静けさが戻る。

「……なんで止めるんですか」

ぽつりと優が言う。

「だってあんなの、絶対おかしいです」

悔しそうに拳を握っている。

「廉先輩のこと、ちゃんと知らないくせに…」

その言葉に、

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。

(……やっぱり)

気づいてしまう。

(ダメだって、分かってるのに)

一歩近づく。

「優」

名前を呼んで、

そのまま――

ぎゅっと、抱きしめた。

「え……?」

驚いた声。

でも構わず、腕に力を込める。

「……ありがと」

小さく、耳元で呟く。

こんなに近くで感じる体温と、

戸惑ったように固まる気配。

(やっぱり)

ゆっくりと目を閉じる。

(優じゃなきゃダメだ)

ずっと欲しかったものを、

この子は当たり前みたいにくれる。

比べないで、

ちゃんと“俺”を見てくれる。

そんなの――

(……好きになるに決まってるだろ)

ずっと押し込んできた気持ちがどうしようもなく溢れてくる。

俺が優のことを好きになったらいけないと分かっているのに、

腕の中になる温もりを手放したくないと思ってしまう。

この時点でもう、俺はとっくに手遅れだった。
< 41 / 48 >

この作品をシェア

pagetop