腹黒王子の愛は、激甘でした。

46話 文化祭のジンクス

文化祭実行委員に決まってから数日後。

放課後の教室で、私は大量のプリントとにらめっこしていた。

「……えっと、模擬店の配置図がこれで、ステージ発表の時間割がこっちで……」

机の上には紙、紙、紙。

そして、終わる気配のない作業量。

(……多くない!?)

思わず心の中で叫ぶ。

「咲良さん、これ去年の資料なんだけど今年用に書き直してもらっていい?」

「あ、はい!」

別のクラスの実行委員の先輩から新たな資料を渡される。

受け取った瞬間、ズシッとした重み。

(いや多いって!!)

内心パニックになりながらも、必死に笑顔を保つ。

「あとこの後、全体ミーティングあるから体育館集合ね」

「えっ、今からですか!?」

「うん、もうすぐ始まるよ〜」

軽く言われてしまって、私は慌てて資料をまとめた。

* * *

体育館に入ると、すでにたくさんの生徒が集まっていた。

各クラスの実行委員、ステージ担当、装飾担当……。

とにかく人が多い。

(こんなに関わる人いるんだ……)

体育祭とはまた違う規模の大きさに圧倒される。

「それでは文化祭実行委員会を始めます」

前に立った先輩の声で一斉に空気が引き締まる。

説明はテンポよく進んでいくけれど──

「各クラスは今週中に企画書提出」

「装飾は安全基準に従って」

「ステージ発表はリハーサル必須」

(待って待って待って、情報量多すぎる……!)

頭が追いつかない。

必死にメモを取りながらも、どんどん焦りが募っていく。

* * *

ミーティングが終わった頃には、すっかり日が傾いていた。

私はふらふらと廊下を歩く。

「……つ、疲れた……」

思わず本音が漏れる。

体育祭の準備も大変だったけど、これはレベルが違う。

(文化祭ってこんなに大変なんだ……)

ちょっと甘く見てた自分を反省する。

すると──

「優、お疲れ様」

聞き慣れた声に顔を上げる。

「廉先輩……!」

そこには、ペットボトルを片手にした廉先輩が立っていた。

「はい、これ。顔に“疲れてます”って書いてあるよ」

そう言って飲み物を差し出してくれる。

「えっ、いいんですか!?」

「いいよ。頑張ってるご褒美ってことで」

軽く笑うその表情に、思わずほっとする。

「ありがとうございます……!」

私はペットボトルを受け取って、一口飲んだ。

冷たい水が体に染み渡る。

「文化祭の実行委員って、こんなに大変なんですね……」

正直な気持ちをこぼすと、

「だろうね。学校行事の中で一番忙しいって言われてるし」

と廉先輩は肩をすくめた。

「ええっ!?そうなんですか!?」

「うん。特に最初はね」

(……終わる気がしない)

一瞬遠い目になる私を見て、廉先輩はくすっと笑った。

「でもさ、文化祭ってちょっと特別なイベントなんだよ」

「特別、ですか?」

私が首を傾げると、廉先輩は少しだけ楽しそうな顔をした。

「この学校、文化祭にジンクスあるの知ってる?」

「ジンクス……?」

聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。

「文化祭の最後にさ、後夜祭で上がる花火を一緒に見た二人は結ばれるってやつ」

「ええっ!?」

思わず大きな声が出てしまう。

(な、なにそれ!?)

廉先輩はそんな私の反応を面白そうに見ながら続けた。

「具体的には色々説あるんだけどね。一緒に回ったり、最後のイベントで一緒にいたり」

「へ、へぇ〜……」

動揺を隠せない。

(それって、ほぼデートじゃん……!)

顔がじわじわ熱くなる。

「まぁ、毎年誰かしらカップル成立してるし、あながち嘘でもないかもね」

さらっと言う廉先輩に、心臓がドキンと跳ねた。

(文化祭で……結ばれる……)

頭の中に、ある人の顔が浮かぶ。

――颯汰先輩。

「……優?」

「は、はいっ!?」

呼ばれてハッと我に返る。

「なんか考え込んでた?」

廉先輩が少しだけ覗き込むようにして聞いてくる。

「い、いえ!なんでもないです!」

慌てて首を振る。

そんな私を見て、廉先輩はふっと優しく笑った。

「そっか。まぁ、無理しすぎないでね」

「はい……!」

私は小さく頷いた。

(文化祭のジンクス、か……)

忙しさでいっぱいいっぱいだったはずなのに。

その話を聞いてから、少しだけ胸がざわついている。

これから始まる文化祭準備。

その先に待っているものを、まだ私は知らない。
< 46 / 47 >

この作品をシェア

pagetop