受付嬢なのに、清掃員から一途に溺愛されています ~タワマン最上階で猫と過ごす、秘密の恋~
 その週末、昼。
 少しだけ洒落たイタリアンレストランで、
 待ち合わせをした。

 先に着いていた私は、
 窓際の席でメニューを眺めながら、
 落ち着かない気持ちをごまかしていた。

 ほどなくして、店の入口に人影が見える。
 西条さんだった。
 スーツではなく、ラフな服装。
 でも、どこかきちんとしていて、
 落ち着いた雰囲気は変わらない。

  「お待たせしました」

 そう言って、軽く頭を下げる。
 その仕草が、清掃員の時と同じで、
 少しだけ胸が和らいだ。

 席に着くと、会話は自然に始まった。
 ……というより、
 私が一方的に話していた気がする。

 会社のこと。
 受付の仕事のこと。
 覚えることが多くて大変だという愚痴まで。

 西条さんは、ほとんど聞き役だった。
 相槌を打ちながら、
 ときどき短く質問を挟むだけ。

 不思議と、話しやすい。
 話題がペットのことに移ったときだった。

  「実家で、猫を飼っていて」

 そう話すと、西条さんの目が、
 ふっと輝いた。

  「僕も、なんです」

 思わず顔を上げる。

  「一人暮らしなんですが……
   帰宅して、猫と過ごす時間が、
   いちばんの癒やしで」

 少し照れたように笑って、
 スマートフォンを取り出す。

  「まだ、飼い始めて
   一年も経ってないんですけど」

 画面に映し出されたのは、
 アメリカンショートヘアの猫。

 丸い目でこちらを見上げたり、
 床に転がったり。

 動画まであって、思わず声が出る。

  「……かわいい」
 
  「ですよね」

 その一言が、嬉しそうだった。

 そこからは、すっかり猫の話になった。

 「なまえ、マルと言うんです」

 「マルちゃん、可愛いですね」

 その後も、猫の話が続いた。

 ごはんのこと、寝る場所のこと、
 甘えてくる瞬間。
 時間が経つのも忘れて、
 気づけば笑っている。

 こんなふうに、
 何でもない話で盛り上がれるなんて。
 気を使わなくていい距離感が、心地いい。

 ――こんな人が、彼氏だったら。

 ふと、そんな考えが浮かぶ。
 慌てて、心の奥にしまい込むけれど、
 その感覚は、消えずに残ったままだった。
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