受付嬢なのに、清掃員から一途に溺愛されています ~タワマン最上階で猫と過ごす、秘密の恋~
 エントランスに入った瞬間から、
 心臓の音がうるさい。
 以前とは、明らかに違う。

 玄関で迎えてくれた西条は、
 いつもと変わらない様子で微笑んだ。

  「どうぞ」

 何事もなかったかのように部屋へ招かれ、
 同じように紅茶を淹れてくれる。

 私は少し緊張しながら、
 持ってきたお菓子を差し出した。

  「……よかったら」

  「ありがとう。
   あ、このメーカー好きなんだ」

 そう言って、無邪気に笑う。
 ――変わらない。

 でも、私だけが、ぎこちない。
 ソファに腰を下ろしたあと、
 西条は、静かに話し始めた。

 自分が社長であること。
 清掃員の格好で早朝に掃除をしていた理由。

 私は、黙って聞いていた。

 「肩書きがあるのは、社内だけです。
  今は……ただ、猫好き同士ですよ」

 その言葉に、少しずつ、胸の力が抜けていく。
 それでも、心の奥では葛藤が続いていた。
 ――私で、いいのかな。

 夜になり、帰ろうと立ち上がったとき、
 ここにいてはいけないような気がした。

 でも、その瞬間。
 また手を、取られた。
 今度は、強く。

 引き寄せられて、顔が近づく。
 何も考えられなくなって、
 ただ、目を閉じた。

 唇が重なる。
 心臓の高鳴りと、
 不思議なほどの心地よさ。

 自分には不相応だと思う気持ちと、
 それでも、離れたくない気持ちが、
 ぐちゃぐちゃに混ざる。

 なのに、体の力が、ふっと抜けて、
 そのまま、身を預けていた。

 窓の外では、東京の夜景が、
 やけにきれいに輝いていた。

 その日も、私はそそくさと帰った。
 ドアが閉まった瞬間、
 なぜか、ふっと涙がこぼれた。
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