受付嬢なのに、清掃員から一途に溺愛されています ~タワマン最上階で猫と過ごす、秘密の恋~
 西条は、何も言わずに立ち上がると、
 隣の部屋へ向かった。

 戻ってきた彼の腕には、
 畳まれた衣類が抱えられていた。

 新品の、
 男物のトレーナーとズボン。

  「これに着替えろ」

 低くて落ち着いた声。
 命令ではなく、
 最初から私の体調を前提にした言い方だった。

 私は小さく頷き、
 差し出された服を受け取る。

  「……大きいですね」

 そう言うと、
 西条は一瞬だけ視線を外し、
 それから短く答えた。

  「その方が、落ち着くだろ」

 理由を説明するでもなく、
 当然のことのように。

 言われるまま、私は袖を通した。

 やっぱり大きくて、
 手はすっぽり隠れてしまう。

 でも――
 包み込まれるみたいに、温かい。

 新しい布の感触と、西条の部屋の匂い。
 そして、彼の体温が、
 まだ残っているような気がした。

  「……あったかい」

 思わず漏れた声に、
 西条は何も言わなかった。

 ただ、
 私の前に立ったまま、静かに見ている。

 その視線が、不思議と安心できて、
 胸の奥がゆっくり緩んでいく。

 大きな服の中で、
 私は少しだけ肩の力を抜いた。

  「無理するな」

 そう言って、西条は私の肩に、
 そっと手を置いた。

 強くはない。
 でも、逃がさない温度。

  「今日は、俺のところで休め」

 命令じゃない。
 でも、
 断る理由が、
 どこにも見当たらなかった。

 私は小さく息を吐いて、
 そのまま、彼の方へ身を預ける。

  「……はい」

 短い返事しかできなかったけれど、
 それで十分だと、
 分かってくれている気がした。

 大きな服と、
 静かな声と、
 そばにいるという事実。

 それだけで、
 胸の奥が満たされていく。

 ――幸せだ。

 こんなふうに、
 何も考えずに、
 守られていられることが。

 西条は、
 それ以上、何も言わなかった。

 ただ、
 そこにいることが、
 いちばんの看病だと言うように。
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