八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
「あなたのご実家の蕎麦屋を、負債ごと私に売ってください。二億の借金を帳消しにしたあと、蕎麦屋が倒産しないように権利は私が保持します。そのあと思い出の詰まった店で、新たに店長となってくれる人を募集するんです。そうしたら、少なくとも大切なお店は守れるでしょう? あなたのご家族もこれ以上心労を抱えずに済むはずです」

(……何を……、言ってるんだろう、この人)

 初対面の副社長が、二億ものお金をくれると言っている。

 訳が分からなくなった私は、しばしポカンとしていた。

「駄目ですか? 他に道はないように思えますが」

 けれど副社長は目を瞬かせ、「おかしな事を言ったかな?」という顔をしている。

 私は大きな溜め息をつき、突っ込みどころのありすぎる提案にかろうじて返事をする。

「……普通の人は、初対面の人に二億ものお金を出しません。逆にお尋ねしますが、それで副社長になんのメリットが?」

 そう言うと、副社長は腕組みをして何かを考えると、ニコッと笑って提案してきた。

「取り引きしましょう」

「……取り引き?」

(まさか夜のお店で働けとか、性奴隷になれとか……)

 変な想像を働かせていると、副社長は笑みを深めて言う。

「家事は得意ですか? もし可能なら、仮の恋人になった上で同棲し、手料理を振る舞ってくれると助かるんですが」

「…………はい?」

 今度こそ、私は固まってしまった。

(……なに言ってるんだろう、この人……)

 再度、私はさっきと同じ事を考える。

(頭の栄養がすべて顔にいってしまったのかな)

 私は現実逃避のためにかなり失礼な事を考えたあと、溜め息をついて首を横に振った。

「……からかっているなら……」

「からかってなんていません」

 副社長は私がすべて言う前に被せ気味に言うと、真剣な眼差しで見てくる。

「実は両親に結婚をせっつかれているんですが、仕事が楽しくて女性とのお付き合いを考えていないんです。でも同棲するほどの〝恋人〟がいるなら、うるさく言われる事もなくなるだろうという目的が一つ。もう一つは、私自身、料理は不得意ではないのですが、多忙を極めているので、疲れて帰ったあとに自分で料理を……と思うと、なかなか手が動きません。外食やデリバリーばかり続けていると、カロリーが高くなってしまいますしね」

「はぁ……」

 スラスラと言われ、私は彼の雰囲気に気押される。

「家政婦さんを雇っていた時期はありました。本来なら家主が不在の間に掃除や料理をしてもらい、顔を合わせる事はないのですが、うっかり時間が被ってしまった事がありまして……。……そうしたら、たまたま若い女性が担当だったのですが、連絡先の書いたラブレターが置いてあったり、求めていない手作りお菓子なども冷蔵庫に入っていまして。……正直、料理を口にするのが怖くなり、トラウマになりました」

「……それは、お気持ちお察しします」

 確かに、それは怖い。

 学生時代のとてもモテていた男の子も、『手作りチョコは中に何が入ってるか分からないから、受け取ったら捨てる』と言っていた。

「ありがとうございます」

 副社長は理解を得られて安堵したようだ。

「……でも、それじゃあ釣り合わなくないですか? 私は副社長と同棲して家事をすればいいだけ。なのに副社長はメリットがないのに二億ものお金を出すなんて……。それだけのお金があるなら、いま仰った問題も解決できると思います。お金を出せば、理想の恋人を演じてくれる女性は大勢いるでしょうし。私みたいな素人より、恋人役も料理を作るのも、プロに求めたほうがいい気がします」

 差し伸べられた手を払うような言葉だけれど、いい人だと思ったからこそ、無駄に二億なんて大金をドブに捨てさせられない。

 けど――。

「あなたがいいんです」

 副社長は縋るような目で私を見てくる。

(~~~~っ、なんて目をするの!)

 この目、絶対初対面の女性に向ける目じゃない。

 それじゃなかったら、とんだ女ったらしだ。

(…………でも…………)

 まだ逡巡していると、副社長は立ちあがり、ゆっくりとテーブルを回り込んで私の隣に座った。

 そして、私の手を包み込むように両手で握ってくる。

(……あ、……いい匂い……)

 彼からはフワッと柑橘系の香りがし、私は気づかれないように匂いを嗅ぐ。

「……まだ恋はしていないので、一目惚れと言ったら語弊がありますが、面接の時に三峯さんを見て『いいな』と思ったんです。海外に出て働くバイタリティがありながら、優しげな顔立ちをしていて、とても気配りができそうな雰囲気を感じました。それで、『この人なら信じられる』と思ったんです」

 副社長は私の手をさすり、言葉を紡いでいく。

「私を助けてくれませんか?」
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