八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
「大丈夫です。お気にせず」

 この優しい人に気遣わせては駄目だと思った私は、曖昧に微笑む。

 けれど彼は引き下がらなかった。

「言いたがらないという事は、心因性のものですか? だとしたら余計に対処法を教えていただきたいです」

「……心因性の発作を抱えていても雇用するんですか?」

 恐る恐る尋ねると、彼は微笑んだ。

「弊社は障碍のある人も雇用しています。就ける仕事は限られていますが、なるべく働ける機会を増やしたいと思っているんです。……でも、三峯さんは〝ゴールデン・ターナー〟で働いていたんですから、お客様の前に出る仕事でも問題ないと思っていますが、……それで大丈夫ですよね? 面接の時にもフロントを希望してしましたし」

「はい、問題ありません。即戦力でフロントに立てる自信があります」

「では、理由を教えてください。聞いたからといって、それで落としたりしません」

 私を見つめて言う副社長の目は、とてもまっすぐだ。

 ――彼は嘘を言っていない。

 直感で理解した私は、溜め息をついてからポツポツと話し始めた。

「とても私的な事なのですが……」

 前置きをしたあと、私は〝体調を崩して〟ゴールデン・ターナーを辞めて帰国したあと、父が発作で倒れて帰らぬ人となった事、そして父が巨額の負債を作っていた事を打ち明けた。

 恥ずかしさもあるので彼の目を見て話せなかったけれど、副社長は黙って私の話を聞いてくれていた。

 すべて話し終えたあと、彼は小さく息を吐いて労るように言った。

「……大変でしたね。それで、負債は幾らですか?」

 知った時はにわかに信じられなかった額だったので、なかなか人様には言えない。

 黙っていると、副社長は尋ねてくる。

「一千万円ぐらい?」

 尋ねられ、私は首を左右に振る。

「三千万円? 五千万円?」

 これだけ尋ねられて何も言わないのは悪いので、勇気を振り絞って打ち明けた。

「……に、……二億……」

 白状すると、副社長は無言で目を見開いた。

(……そうですよね、信じられませんよね。私だって夢だと思いたい。……でもこれは変えようのない現実で……)

 私は溜め息をつき、言い訳するように付け加える。

「……どうしたらいいのか分からないんです。渡米した事で家族に心配をかけていたのに、帰国して安心させられたと思ったら、父が亡くなってしまって……。母はパートを増やすと言っていますが、体を壊せば元も子もありません。弟は都内で働いていて、結婚を考えている彼女がいます。ですが借金があると知られたら、どれだけ愛し合っていても親御さんが許さないでしょう。……すべてを失う前に、時間が戻ればいいのに……」

 話しているうちに感情の収拾が付かなくなり、私はポロポロと涙を零す。

「……すみません……。こんな女、雇いたくないですよね……っ」

(こんな格好いい人の前で、情けない姿を晒したくなかった)

 誰より自分に失望しているのは、私自身だ。

 私は自惚れた事に、自分を「偏差値のいい大学を出て海外に行った、行動力のある女性」と思っていた。

(ウィルにフラれるまでの私は、鼻持ちならない自信家だったかもしれない)

 そんな自分が、恥ずかしくて堪らない。

 ――情けない。

 頬に伝った涙を乱暴に拭った時、副社長が立ち上がり、ティッシュボックスを静かにテーブルの上に置いた。

「まず、涙を拭いて」

 言われて私はティッシュで涙を拭き、鼻をかむ。

(シャンとしないと。この人に泣き言を言っても始まらない)

 自分に言い聞かせた時、副社長は私を見つめて言った。

「一つ提案させてもらっていいでしょうか?」

「はい」

 私の身の上話を聞いて、彼がどう思ったかは分からないけれど、敏腕副社長なら借金返済のアドバイスをくれるかもしれない。

 ――自分たちで何とかしていかなきゃ。

 覚悟を決めて彼を見つめると、副社長は斜め上の事を言った。

「じゃあ、私が二億の負債を肩代わりしましょう」

「えっ!?」

 あまりの驚きに、私は声を上げる。

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