八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
 もともと私は、暁人さんの事を「素敵な人」と思っていても、異性としてそれほど意識していなかったはずだ。

 好きになるには雲の上の人すぎるし、彼に二億もの借金を肩代わりさせてしまった、申し訳なさのほうが先だってしまう。

 だから対等な恋人にはなれる訳がないと思っているし、どれだけ想っても徒労に終わると理解していたはずだ。

 この奇妙な関係を受け入れたのも、『自分を差しだすぐらいしかできない』と思ったからであって……。

 なのに暁人さんに『一目惚れした』と言われてから、彼に期待してしまっている自分がいる。

 ――好きになっちゃ駄目。

 自分に言い聞かせて目を閉じると、眦から涙が零れる。

 暁人さんは私の太腿を割り開き、挿入しようとしたけれど、私が涙を流した事に気づいたのだろうか。

「……芳乃?」

 彼は私の乱れた髪を撫でつけ、どんな表情をしているのか見ようと、顔を露わにする。

 ――余計な心配を掛けたらいけない。

 ――彼を煩わせたらいけない。

 私は自分に言い聞かせると、彼のほうを見て微笑みかけた。

「……大丈夫です。あまりに気持ち良くて驚いてしまって……」

 そう言うと、暁人さんは安堵したように息を吐く。

「そうか。なら良かった。……君を抱きたい。……けど、いいか?」

 ここまで事を運びながらも、彼は律儀に尋ねてくる。

 ――彼みたいに素敵な人になら、遊ばれてもいいのかもしれない。

 ――別れる時に傷付くのは目に見えているけれど、暁人さんが優しい嘘をつき続けてくれるなら、ひとときだけ幸せな夢を見てもいいのかも……。

 そう思った私は、彼に笑いかける。

「どうぞ。私の体は、あなたのものです」

 私の言葉を聞いた暁人さんは、一瞬瞠目すると何とも言えない表情をする。

 けれど気持ちを取り直すと、私の手をとって甲にキスをし、誓うように言った。

「……優しくする」

 彼は切なげに微笑んだあと、ゆっくりと腰を進めてきた。





 最後に暁人さんは私の名前を呼んで胴震いし、絶頂すると溜め息混じりに切なげな息をついた。

 ――達ってくれてる。

 触れ合った肌が温かい。

 彼の体の重みが愛しく、それでいて切ない。

 私は暁人さんの背中に両腕を回し、彼に気づかれないようにこっそり泣いた。

 ――私は彼の〝特別〟にはなれない。

 私は心の底で期待している、純粋で愚かな自分に言い聞かせる。

(暁人さんを好きになったとしても、三峯家を救ってくれた彼のためにも、絶対に迷惑になる行為はしない)

 こんなに素敵で優しい男性に抱かれて、好きになるなというほうが難しい。

 いまだ彼の過去も、プライベートはどう過ごしているのか、交友関係も知らないままだけれど、私は暁人さんに抱かれてすっかり心を許してしまった。

 私はサラリと彼の髪を撫で、天井を見上げて息を吐く。

(あなたが私を求める限り抱かれます。ご飯も作りますし、何でもします。あなたは家族を救ってくれた恩人ですから)

 私は心の中で呟き、また涙を零す。

(でも、あなたはいつか私よりずっと素敵な女性と結婚するから、その時のためにこの気持ちは口にしないようにしますね)

 図らずも、私の脳裏にはウィルとレティシアが浮かんでいた。

 御曹司の隣には、お似合いの令嬢がいるのがお決まりだ。

(私みたいな一般人は、絶対に夢をみてはいけない)

 NYで嫌というほど現実を知ったはずだ。

 いくら暁人さんが私に優しく接してくれても、御曹司と一般人の人生が交わる事などない。

「……芳乃」

 顔を上げた暁人さんは熱の籠もった目で私を見つめ、顔を傾けてキスをしてきた。

 唇を舐められたあとに甘噛みされ、ヌルリと舌が侵入してくる。

 いまだ繋がったままの彼はゴロリと横臥し、脚を絡めると想いの籠もった口づけを交わしてきた。

 暁人さんは最後にチュ……と舌を吸ったあと、愛しげに私を見つめて微笑む。

(ウィルも事後にこんなふうに笑ったっけ。……でも、結局はセックスをしたあとだけ。〝本命〟は別にいるんだから)

 私は暁人さんに微笑み返し、彼の胸板に額をつけながら、自分に言い聞かせて想いを鎮静させていく。

 胸板を通して、トクン、トクン……と彼の鼓動が聞こえてくる。

(今は新しい職場での仕事に真剣に取り組んで、家では暁人さんの要望に応えるしかない。私が一番に優先すべきは、家族を安心させる事なんだから)

 本来の目的のためなら、恋心の一つや二つ、なかった事にするのは簡単だ。

 暁人さんは私の髪を優しく撫で、その手つきにうっとりする。

 ――――けれど、不意にグゥゥ……とお腹が鳴ってしまい、私はとっさに両手で腹部を押さえる。

「わ……っ」
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