八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
(そうだ! 外商さんたちが来て、一日中着せ替えごっこみたいになっていて、そのまま夕方で……、いま何時!?)

 我に返った私は慌てて時計を見ようとしたけれど、その姿を見た暁人さんにクツクツと笑われてしまった。

「ごめん。無理させたな。飯…………、を作るのは無理そうだから、デリバリーでも頼もうか」

「い、いえ! 私が作りま……っ、んっ」

 私は起き上がろうとするけれど、体に力が入らない。

「???」

 こんな状態になった事のない私は、言う事をきかない自分の体に首を傾げる。

「無理しなくていいって」

 暁人さんは明るく笑い、下着を穿いて「何を食べる?」とタブレット端末でデリバリーサイトを開き、私に見せてきた。

「あ、明日からちゃんと働きます……」

「OK。でも適度に外食やデリバリーも必要と思っているから、あまり気負わないで」

 クスクス笑う暁人さんは、まるで恋人のように接してくれる。

〝副社長〟はどこかへ、今は二十五歳の男性そのままだ。

(きっと社員さんたちは、みんな暁人さんに憧れてると思う。この人のこんなに無防備な姿を知っているのが、私なんかでいいんだろうか……)

 私はそう思いながらも、ひとまず液晶画面を覗き込んだ。



**



 私が暁人さんと同棲し始めたのが、七月半ばだった。

 まず、マンションの付近にある店など、土地に慣れてほしいと言われ、実際にホテルで働くのは八月頭からとなった。

 それまでの間、私は散歩がてらにスーパーやコンビニ、郵便局などの場所を覚えた。

 キッチンにも私がよく使う調理器具が増え、新鮮な食材も冷蔵庫に入り、調味料も使いやすい配置にセットされた。

 彼も料理はできるらしいけれど、多忙を極めているから気が向いた時しかしないらしい。

 だからキッチンのどこに何を置くかなども、私の好きにしていいとの事だった。

 暁人さんと体を重ねた翌日の夜は、彼のリクエストでハンバーグを作った。

 口に合うか緊張したけれど、「美味い」と言ってくれて安心した。

 ちょっとしたこだわりだけれど、タネを形成する時に手に油を塗っておくと、焼いている時に中の肉汁が外に出ず、パンパンに膨らんだハンバーグができあがる。

 食べる時は肉汁がドバーッと滝のように溢れるので、自己流ハンバーグの自慢ポイントだ。

 他にも煮物やオムライスなどのベーシックな洋食、丼ものに中華などを作った時も、暁人さんはすべて「美味い」と嬉しそうに言って食べてくれた。

 どうやら好き嫌いはないようで、そこも嬉しかった。

 最初に『料理を作ってほしい』と言われた時は、プロ並みの腕を期待されているのかと思って不安だった。

 それを伝えると、「子供の頃は母が作ってくれた料理を食べていたし、金持ちだからって家庭料理を食べない訳じゃないんだよ」と笑われてしまった。

 暁人さんと一緒に暮らして分かった事だけれど、彼は思っていた以上に自然体の男性で、一緒に過ごすのがとても楽だった。



**



 やがて出勤日が訪れ、私は自転車で〝エデンズ・ホテル東京〟まで向かい、支給された制服に着替えたあと、指導員に挨拶をした。

 私と暁人さんが同棲している事は、秘書や総支配人ぐらいしか知らないらしい。

 だから『安心して勤務して』と応援(?)された。

 仮に勤務時に暁人さんと遭遇する事があっても、〝面接で会っただけの副社長と社員〟として接すると決めている。

 ホテルスタッフには、ドアマン、ベルスタッフ、フロント、清掃員の他に、キッチン関係、宴会担当、ブライダル担当の部門に別れている。

 会社としては、他の会社のように営業や広報、人事、総務、経理などがある。

 暁人さんは普段、神楽坂グループの本社ビルにいて、全国または海外にあるリゾートホテルなどにも出張に行き、現地の責任者やスタッフたちと確認、打ち合わせをしているようだ。
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