八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
新生活
今は大体の連絡はリモートでできるけれど、顧客情報などネットで扱ってはいけないものもあるし、現地に行かないと分からないものは沢山あるので、彼は思っていた以上に頻繁に出張に行っている。
私は〝ゴールデン・ターナー〟で三年間フロントを勤めていた経歴を見込まれ、即戦力としてフロントに配置された。
けれど経験はあっても〝エデンズ・ホテル東京〟では新人なので、先輩フロントの様子を見ながら、当面の間は補助をメインに仕事を覚えていく事になった。
どんな仕事をするかを分かっていて、接客能力があるとしても、それぞれのホテルのやり方があるので、まずはそれを理解しなければならない。
特に私が元勤めていたホテルはアメリカのホテルなので、海外と日本の違いは大きい。
「三峯さん、NYのホテルにいたんですって? 格好いい! 近いうちに歓迎会があるから、その時にでも話を聞かせてください!」
休憩時間に話しかけてくれたのは、私より二つ年下の木下さんだ。
「ぜひ。……と言っても、あちらでフロントを務めていたのは三年なので、新人の失敗談が多いですよ。もう少し勤続できていたら、武勇伝をお話できたかもしれませんけど」
「あはは! 面白い! でも、失敗談も勉強になりますから、ぜひ聞きたいです」
「そう言ってもらえて嬉しいです」
フロントのメンバーは、木下さんの他に二十代の男性と、四十代半ばの女性がいる。
広々としたロビーにはコンシェルジュもいて、さりげなくこちらの様子を窺っては私の働きぶりをチェックしている。
(早く慣れて、皆さんの手を煩わせないようにしないと)
私は心の中で気合いを入れ、休憩のあとまたフロントに立ち、ロビーに入ったお客様に向かって丁寧に一礼した。
**
八月頭から働き始め、あっという間に世間はお盆休みを迎えてかき入れ時になった。
その頃になると暁人さんも多忙になり、いつもより帰りが遅いのが当たり前になっている。
私もシフトによっては夜勤になる事もあるので、そういう時はお互い無理をしないと決めてある。
繁忙期に応じてトラブルも多くなっているようで、副社長である彼まで問題が報告され、判断を仰がれる事もあるみたいだ。
ホテルでは夏の要素を取り入れたレストランメニューや、旬の桃をメインにしたアフタヌーンティーイベントも開催され、浴衣を着てのイベントや、ハロウィンに向けての企画など、先手を打った会議もしている。
そんな中、暁人さんはいつも通り涼しげな表情を保っているけれど、暑さと共に疲労を蓄積させながらも、やる気を漲らせているようだった。
「仕事はどうだ?」
暁人さんが甘いとうきびを沢山もらったので、今夜はとうきびご飯にした。
あとは肉じゃがに焼き魚、ほうれん草のごま和えだ。
食後に暁人さんが買ってきてくれたケーキを食べていると、向かいのソファに座っている彼に尋ねられる。
暁人さんは私のために甘い物を買ってくれるものの、自分は苦手だからと食べない。
私だけのために多忙な中、ケーキ屋さんに寄ってくれたのは嬉しいけれど、申し訳なさもある。
でもそれを伝えると、「芳乃の喜んだ顔が見たいから」と言われ、何も言えなくなる。
私は桃のタルトを食べ終え、口の中にある物を嚥下したあとに答えた。
「だいぶ慣れてきました。NYのホテルと勝手が違うところもありますが、色々教えてもらっています」
「なら良かった。人間関係は?」
「良好です。皆さんいい方ばかりで、今度の週末に歓迎会を開いてもらえるみたいで楽しみです。……と言っても、全員が参加できる訳ではないので、一部の方に来てもらって、また次の週に不参加の方たちと……という感じです。お手を煩わせて申し訳ないと言ったのですが、みんな『飲みたいから』と言っていて」
私は職場の人たちの顔を思い出し、クスクス笑う。
「そうか。丁寧に扱ってもらってるみたいで良かった」
と、テーブルの上に置いてあった暁人さんのスマホが震えた。
「悪い」
「いいえ」
彼は仕事用とプライベート用のスマホを持っていて、電話がかかってきたのはプライベート用だ。
「Hello?」
(あ、海外の人?)
暁人さんが英語で応じたので、思わず私はピクッと反応する。
でも聞き耳を立てるなんて下品な事をする訳にいかず、私は聞こえていないふりをしてミルクティーの残りを飲み、自分のスマホを手にとった。
暁人さんは席を立ち、話しながらリビングダイニングを出て行く。
途中で「Grace?」と女性の名前が出て、私は思わず固まってしまった。
私は〝ゴールデン・ターナー〟で三年間フロントを勤めていた経歴を見込まれ、即戦力としてフロントに配置された。
けれど経験はあっても〝エデンズ・ホテル東京〟では新人なので、先輩フロントの様子を見ながら、当面の間は補助をメインに仕事を覚えていく事になった。
どんな仕事をするかを分かっていて、接客能力があるとしても、それぞれのホテルのやり方があるので、まずはそれを理解しなければならない。
特に私が元勤めていたホテルはアメリカのホテルなので、海外と日本の違いは大きい。
「三峯さん、NYのホテルにいたんですって? 格好いい! 近いうちに歓迎会があるから、その時にでも話を聞かせてください!」
休憩時間に話しかけてくれたのは、私より二つ年下の木下さんだ。
「ぜひ。……と言っても、あちらでフロントを務めていたのは三年なので、新人の失敗談が多いですよ。もう少し勤続できていたら、武勇伝をお話できたかもしれませんけど」
「あはは! 面白い! でも、失敗談も勉強になりますから、ぜひ聞きたいです」
「そう言ってもらえて嬉しいです」
フロントのメンバーは、木下さんの他に二十代の男性と、四十代半ばの女性がいる。
広々としたロビーにはコンシェルジュもいて、さりげなくこちらの様子を窺っては私の働きぶりをチェックしている。
(早く慣れて、皆さんの手を煩わせないようにしないと)
私は心の中で気合いを入れ、休憩のあとまたフロントに立ち、ロビーに入ったお客様に向かって丁寧に一礼した。
**
八月頭から働き始め、あっという間に世間はお盆休みを迎えてかき入れ時になった。
その頃になると暁人さんも多忙になり、いつもより帰りが遅いのが当たり前になっている。
私もシフトによっては夜勤になる事もあるので、そういう時はお互い無理をしないと決めてある。
繁忙期に応じてトラブルも多くなっているようで、副社長である彼まで問題が報告され、判断を仰がれる事もあるみたいだ。
ホテルでは夏の要素を取り入れたレストランメニューや、旬の桃をメインにしたアフタヌーンティーイベントも開催され、浴衣を着てのイベントや、ハロウィンに向けての企画など、先手を打った会議もしている。
そんな中、暁人さんはいつも通り涼しげな表情を保っているけれど、暑さと共に疲労を蓄積させながらも、やる気を漲らせているようだった。
「仕事はどうだ?」
暁人さんが甘いとうきびを沢山もらったので、今夜はとうきびご飯にした。
あとは肉じゃがに焼き魚、ほうれん草のごま和えだ。
食後に暁人さんが買ってきてくれたケーキを食べていると、向かいのソファに座っている彼に尋ねられる。
暁人さんは私のために甘い物を買ってくれるものの、自分は苦手だからと食べない。
私だけのために多忙な中、ケーキ屋さんに寄ってくれたのは嬉しいけれど、申し訳なさもある。
でもそれを伝えると、「芳乃の喜んだ顔が見たいから」と言われ、何も言えなくなる。
私は桃のタルトを食べ終え、口の中にある物を嚥下したあとに答えた。
「だいぶ慣れてきました。NYのホテルと勝手が違うところもありますが、色々教えてもらっています」
「なら良かった。人間関係は?」
「良好です。皆さんいい方ばかりで、今度の週末に歓迎会を開いてもらえるみたいで楽しみです。……と言っても、全員が参加できる訳ではないので、一部の方に来てもらって、また次の週に不参加の方たちと……という感じです。お手を煩わせて申し訳ないと言ったのですが、みんな『飲みたいから』と言っていて」
私は職場の人たちの顔を思い出し、クスクス笑う。
「そうか。丁寧に扱ってもらってるみたいで良かった」
と、テーブルの上に置いてあった暁人さんのスマホが震えた。
「悪い」
「いいえ」
彼は仕事用とプライベート用のスマホを持っていて、電話がかかってきたのはプライベート用だ。
「Hello?」
(あ、海外の人?)
暁人さんが英語で応じたので、思わず私はピクッと反応する。
でも聞き耳を立てるなんて下品な事をする訳にいかず、私は聞こえていないふりをしてミルクティーの残りを飲み、自分のスマホを手にとった。
暁人さんは席を立ち、話しながらリビングダイニングを出て行く。
途中で「Grace?」と女性の名前が出て、私は思わず固まってしまった。