八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
「待ってください!」

 ――このままじゃ、なし崩しに抱かれてしまう。

 そうなれば私は快楽に流されて抵抗できなくなり、言いたい事を伝えられなくなる。

「こんなの嫌! 抱いて誤魔化そうとしないで!」

 暁人さんの腕の中で暴れると、乱暴な足取りで寝室に向かう彼は、怒った表情で言った。

「何も覚えていないくせに」

 ――え?

 その言葉を聞いた私は、自分に大きな落ち度があるのかと思い、必死に記憶をたぐろうとする。

「あ……っ」

 考えようとしたけれど、ベッドの上に乱暴に下ろされたかと思うと、すぐ暁人さんがのしかかってきた。

 彼は荒々しくスーツのジャケットを脱ぎ、ベストのボタンを外すとネクタイを緩め、シャツのボタンを外していく。

 その目は怒りともつかない感情に彩られ、理由は分からないけれど、彼は私よりずっと根深い感情を抱いていると感じた。

 全部聞きたい。

 だからこそ、抱かれて誤魔化されるのが嫌だった。

「お願いです! あなたの機嫌を損ねてしまったなら、理由を話してください! ハッキリ言って暁人さんは秘密ばっかりで、私はあなたの事を何も知りません!」

 そう訴えると、暁人さんはつらそうに眉を寄せ、目に涙すら浮かべて私を見つめ返してきた。

「……俺だって、こんな感情であなたを抱きたくない……っ」

「ん……っ」

 噛み付くようにキスをされた私は、必死に抵抗しようとするも、口内にヌルリと舌が入り込んだ瞬間、ゾクゾクと身を震わせてしまった。

 ――駄目……っ。

 身じろぎすると太腿を割り開かれ、内腿に熱い手が這う。

「んぅ……っ」

 逃げようとすると、口内を舌でかき回される。

 濃厚な口づけに思わず腰が跳ねると、暁人さんはワンピースを捲り上げて下着に指を掛けると、ねじり下ろしてきた。

「お願い……っ、や……っ」

 弱々しく抵抗すると、暁人さんはいつもと違う口調のまま、性急に尋ねてくる。

「『嫌』? 俺の事、生理的に無理ですか? 俺みたいな男に抱かれたくない?」

「~~~~っ、なんでそんな事を言うの!? 意地悪っ!」

 タチが悪い事に、彼は私が絶対肯定しないと分かった上で尋ねてくる。

 悔しくなった私は涙混じりの声で怒りを示し、彼の胸板を叩いた。

 もっとタチが悪い事に、暁人さんは私に拒絶され、泣かれ、叩かれているのに、目の奥にゾクゾクとした愉悦を得ている。

「も……、やだ……っ」

 涙を流すと、彼は乱れた私の髪を撫でつけ、顔を覗き込んで尋ねてきた。

「俺の事、好きでしょう?」

 ――答えちゃ駄目。

 そう思うのに、私は顔を真っ赤にし、涙を流して呼吸を乱しながら応えてしまった。

「~~~~っ、――――嫌になるほど愛してる……っ」

 ――負けた。

 私は戦意喪失し、服を乱されたまま嗚咽し始める。

 今まで我慢していた感情がすべて決壊し、涙となって目から溢れている。

 様々な事があって、〝普通〟とは言えない環境だけれど、やっと亡くなった父も安心してくれるような生活を送る事ができたと思っていた。

 ずっと男性不信で生きていくと思っていたのに、暁人さんが親身になってくれ、『この人なら信じられるかも』と思って好きになったのに、――――彼は妻帯者だった。

 悲劇のヒロインぶるのは良くないと分かっていても、「どうして私ばっかりこんな目に!」と泣きたくなる。

「~~~~っ、幸せに……っ、なりたいだけなのに……っ、好きな人を、好きでいたいだけなのに……っ」

 私は激しく体を震わせて嗚咽し、当たり前の幸せを渇望する。

 暁人さんは溜め息をつくと、私の隣に寝転び、寄り添うように抱き締めてきた。

 いまだ、彼の事を愛していいのか分からない。

 けれどボロボロになった今だけはと思い、私は藁にも縋る思いで暁人さんの胸板に額をつけ、新たな涙を流した。





 気が済むまで泣いてボーッとしていると、暁人さんがホットミルクを作って「どうぞ」と手渡してきた。

「……ありがとうございます」

 起き上がった私は、少し蜂蜜の入ったそれをありがたく飲み、溜め息をつく。

「……私、暁人さんを傷つけていましたか? 『覚えていない』と言われても心当たりがなくて……。本当に、ごめんなさい」

 私はまず、彼に謝った。

 暁人さんと話し合って今後の自分の身の振り方を考えるなら、まずはお世話になった人に感謝と謝罪をし、それから前に進むべきだと思ったからだ。

「芳乃先生」

 と、いきなりそう呼ばれて私は目を丸くする。
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