八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~

暁人の過去

 驚いて暁人さんを見ると、彼は苦笑いしていた。

「芳乃さん、大学生の時に家庭教師をしていましたよね?」

「え……、ええ」

 いきなり大学生時代の事を指摘され、私は戸惑いながらも頷く。

 確かに私は、大学時代にアルバイトとして家庭教師をしていた。

「でも、どうして……」

「……思いだしてもらうまでは……、って思っていたけど、仕方ないか」

 暁人さんはそう言うと、〝昔〟の事を語り始めた。



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 俺――神楽坂暁人は、神楽坂グループの御曹司として生まれ育った。

 母の旧姓は仁科(にしな)と言い、仁科家も代々ホテル業を営んでいた。

 両親はお見合い結婚だったが馬が合ったらしく、幸せな結婚生活を送り、長男として俺が生まれた。

 幼等部から通い始めた学校は、エスカレーター式の富裕層向けの所だった。

 同級生は、俺と同じように金持ちの子息、令嬢たち。

 成長するにつれて告白される事もあったが、自分と似た環境で育った女の子に興味は持てなかった。

 それが悪い訳ではないし、いずれ自分もどこかの令嬢と結婚する。

 けれど恋愛が自由な学生時代ぐらいは、変わった価値観を持つ人と触れ合い、視野を広めたいと思っていた。

 芳乃と出会ったのは、俺が高校生の時だった。

『最近成績伸びたみたいだけど、どうしたんだ?』

 俺が尋ねたのは、親友の幸治(こうじ)だ。

 彼とは家が近い事もあり、幼馴染みとして接していた。

 幸治とは価値観が合ったし、成績こそ競い合っているものの、他はヒリヒリとした感情を持たずに接する事ができて、心地いい関係にあった。

 俺に聞かれた幸治は、嬉しそうに表情を輝かせる。

『伸びたって思う? よし! 最近、T大のお姉さんに家庭教師してもらってるんだよ。教え方がうまいし、俺も綺麗なお姉さんが相手だと〝結果出したろ〟って思うから、相乗効果かな?』

『不純だなぁ』

 俺が呆れて笑うと、幸治もケラケラと笑う。

『……でも、家庭教師でそんなに成績が上がるなら、アリかもな』

 俺は考えるふりをしつつ、幸治の肩を組む。

『で、どんだけ美人? 写真持ってる?』

『暁人も不純だろ!』

 二人で笑い合ったあと、幸治は『ホームパーティーの時の写真』と言って、家庭教師の写真を見せてくれた。

 液晶画面に写っているのは、艶やかな黒髪ロングの美人だった。

 服装はベーシックな感じで、あまりお洒落を気にしているタイプには見えない。

 品のある顔立ちをしていて、雰囲気がとても〝綺麗〟だ。

 笑顔がとても素敵で、素直に「美人だな」と魅力を感じた。

『彼女、三峯芳乃さんって言うんだ。ちょっと抜けたところがあって危なっかしいけど、そこがまた可愛いよ。擦れてないっていうのかな。でも頭はいいし、教え方がマジで上手い』

『芳乃……さん』

 俺は食い入るように画像を見て、彼女の名を呟く。

『もしかして一目惚れした?』

 からかうように言われても、いつものように軽口を叩けなかった。

 幸治に言われた通り、俺は写真を見て芳乃に一目惚れをしたのだ。

『……年下、嫌いかな?』

 真剣に言う俺を見て、幸治はからかうのを止めてまじめに答える。

『彼氏はいないっぽいぞ?』

『ホントか?』

 俺はしばらく、どうすれば芳乃に近づけるか真剣に考えていたが、これしかないと思って親友に尋ねた。

『芳乃さんを家庭教師として紹介してもらってもいいか? 幸治の成績が上がったって言えば、親も前向きに考えてくれると思うんだ。勿論、彼女の顔を潰さないように、勉強はまじめに頑張る』

 そう言うと、親友はポンと肩を叩いてきた。

『協力してやるよ。でも家庭教師と恋愛関係になったって言ったら、芳乃さんの信用に傷がつく。その辺りは上手く考えろよ?』

『分かってる。ありがとう』



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