八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~

八年執着されましたが、幸せです

[どうかなさいましたか? ターナー様]

 いつの間に来たのか、暁人がフロントとウィルの間に立った。





[お前……]

 獰猛な野獣のようにうなるウィリアムを前に、俺――神楽坂暁人は微笑んでみせる。

[いつマーティンと話した? 神楽坂グループに今回のプロジェクトは白紙にすると言ったら、〝別件〟をマーティンと進めているから問題ないと言われた。そんなの初耳だし、手柄が弟のものになるなんて許さない!]

 そう言われ、俺は事実を教える。

[マーティンさんは数年来の友人です。私は仕事でたびたびNYに行きましたが、あちらで彼と楽しく過ごさせていただきました]

[だからといって、COOの僕を差し置いてビジネスの話をする事はないだろう!]

 怒鳴るウィリアムに、俺は残念そうな笑みを浮かべた。

[ビジネスは信頼できる相手とすべきです。女性を弄び、ストーキングするあなたとは、いい関係を構築できないと判断しての事です]

[この野郎……っ!]

 ウィリアムが声を荒げた時、彼のポケットでスマホが鳴った。

 今、NYは深夜前だ。

 グレースのメッセージが〝向こう〟に届いたなら、すぐ連絡をしてくると踏んでいた。

[も……、もしもし、父さん?]

 ウィリアムはスマホを耳に、幾ばくかの冷静さを取り戻した様子で電話に出る。

 彼はしばらく父親と会話をしていたが、目をまん丸にして悲痛に叫んだ。

[COOを解任!? どうして……!]

 顔面蒼白になった彼は、俺の事など忘れたようにロビーの隅へ行き、縋るような声を出して電話を続ける。

 その時にはスカーレットはホテル前に停まっていたハイヤーに乗り、空港に向かったあとだった。

 俺はインカムを使い、警備員に連絡する。

「ロビーで電話をしているターナー氏が暴れたら、すぐに捕らえてください。場合によっては警察に通報しても構いません」

《かしこまりました》

 俺はフロントを振り向くと、愛しいホテリエに会釈する。

(安心して好きな仕事をしていいよ。あなたの事は俺が守る)

 心の中で言い、俺は秘書からかかってきた電話に出た。



**



「これはどう?」

「いいんじゃないかな? 芳乃の品のある美しさに映えそうだ」

「もう。さっきからそういう事ばっかり言って、真剣に考えてくれないんだから」

 俺たちはいちゃいちゃしながらブライダル雑誌を見て、どのドレスがいいか話している。

 俺はベッドの上で芳乃を後ろから抱き締め、肩越しに雑誌を見ている。

 正直、芳乃ならどんなドレスを着ても似合うに決まっている。

(けど、母が『自分の着た白無垢を着てほしい』と言いそうだな。……聞いてみるか)

 一連の事件が片付いたあと、俺は芳乃の家族と改めて会い、自分がかつて彼女の生徒だった事を打ち明け、結婚したいと思っている旨を伝えた。

 彼女の母は芳乃に、二億円の件で負い目を負っているから結婚するのではないかと確認したが、そうではないとハッキリ言われ、最終的に納得してくれた。

 俺の両親に彼女を紹介すると、〝家庭教師の芳乃〟の印象はもとから良かったので、特に母はとても乗り気になっていた。

 祖父母の承諾はすでに下りていて、父も特に反対する理由はなく、俺たちの結婚は認められた。

 そして十二月の上旬に両家で食事をし、なごやかな雰囲気で挨拶を交わした。

 クリスマス目前の今、来年の結婚式に向けて様々な準備を進めている途中だ。


 それとは別に、芳乃が一年前にNYで悲しいクリスマスを送ったと知っていたから、この年末年始は彼女が喜んでくれそうなデートプランを考えている。

 しかし年末年始はホテルの繁忙期なので、それとは別に一月に纏まった休みをとり、温泉にでも行こうと計画を練っていた。

「ウエディングドレス用の下着もあるんだろ? 俺は知っている……」

「んもぉ、そういう所はしっかりしてるんだから」

 芳乃はクスクス笑い、俺の腕を叩く。

「愛してるよ、芳乃」

 俺は彼女の耳元で囁き、芳乃の顎を捉えて振り向かせるとキスをする。

 しばし彼女の唇を味わったあと、俺は雑誌を横に置いて芳乃を押し倒した。

「……見てる途中なのに……」

 ニットワンピースの裾から手を入れると、芳乃は恥じらいながら言う。

 俺は滑らかな素肌を感じながら、愛しい女性の香りをそっと吸い込んだ。



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