八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
 三年前、俺は芳乃がNYに発ったと知ると、すぐに現地にいる知り合いに連絡をした。

 そして彼女が〝ターナー&リゾーツ〟に就職したと知ると、徹底的に経営者一族を調べた。

 俺は海外にも友人がいて、出張の時は様々な人と会って情報を得ていた。

 富裕層には広いネットワークがあり、旨い話も醜聞も、望めば耳に入ってくる。

 どうやら長男のウィリアムは、一応仕事はできるものの、会社を大きく成長させる器ではなく、良くない噂もある男らしい。

 逆に兄に抑圧されている弟のほうが、縁の下の力持ち的な優秀さがあり、堅実な考えを持っていると知った。

 やがて芳乃はウィリアムの毒牙に引っ掛かり、俺は彼を排除する事を考えた。

 その時に手を組んだのがマーティンだ。

 彼としても適当な兄に会社を任せたくないようで、俺がウィリアムを排除し、ターナー家と神楽坂グループが良い関係を結べる提案をすると、乗ってくれた。

 そのようにして、俺はグレースとマーティンの協力を得て、ウィリアムを排除する事に成功したのだ。



**



 暁人に愛撫を受けて吐息をついていた時、彼が「そうだ」と顔を上げたのを見て瞬きをする。

「どうしたの?」

 尋ねると、彼はベッドサイドの引き出しから、ハイブランドのショッパーを出した。

「これ、あげる」

「何……? ありがとう」

 ドキドキしてショッパーを受け取ると、中には細長い箱が入っている。

 ベルベッドの袋を取ると、白地にピンクの薔薇が描かれた、美しいリップケースが出てきた。

 色を確認してみると、ツヤのあるローズピンクのリップだ。

「芳乃はNYのホテルで使っていた赤いリップが嫌になったんだろ?」

 サラリと髪を撫でられ、私は微妙な顔で頷く。

「もう向こうに縛られなくていい。芳乃の優しげな顔立ちに合った色を選んでみたから、今度からはこれをつけて」

「うん……!」

 私は滲んだ涙を拭い、笑顔で頷いた。

「つけてあげる。少し口を開けて」

 言われた通りにすると、暁人は唇の輪郭に沿ってリップを塗ったあと、縦にちょんちょんと塗り潰してくる。

「鏡、見て」

 言われて暁人と一緒にベッドから下りると、私は洗面所に向かう。

 鏡の中には、日本人らしいあまり派手ではない顔立ちの私が写っている。

 リップは主張しすぎず、肌の色を健康的に見せてくれていた。

「……いい、……かも」

「『いいかも』じゃなくて、似合ってるんだよ」

 暁人はそう言うと、リップを塗ったばかりの唇にキスをしてきた。

 思わず彼の肩を押すと、暁人の唇にリップがうつってしまっている。

「もぉ……」

 赤面してうなると、暁人は悪戯っぽく笑い、またキスをしてきた。





 窓の外では雪が降っている。

 トラウマになったクリスマスソングも、今は暁人と一緒にワクワクして聴く事ができている。

 リップへの苦手感も、暁人が克服させてくれた。

「ありがとう」

 私は沢山のものを与えてくれた暁人にお礼を言い、彼の首に両手をまわすと気持ちを込めてキスをした。



**



 翌々年の初夏、私と暁人は神楽坂グループのホテルで結婚式を挙げた。

 私たちはチャペルで愛を誓い合い、何百人もの招待客を収容できる大ホールで披露宴を行った。

 結婚式には両家の家族は勿論、友人も出席してくれ、グレースさんも大喜びで祝福してくれた。

 グループの御曹司と結婚すると言ったら、職場で気まずくなるかと思っていたけれど、幸いにもみんないい人ばかりで、私たちの結婚を祝ってくれた。

 結婚後の仕事について、暁人は私がいかに一流のホテリエになりたいと思っていたかを分かってくれているから、引き続きフロントで働く事になっている。

 副社長夫人になったとしても、私はやっぱりお客様を迎えるフロントの仕事が大好きだ。





 新婚旅行のために二週間のお休みをもらい、ヨーロッパをあちこち回る事になった。

 クラシカルな雰囲気のホテルに泊まってサービスを受け、学ぶ事は沢山ある。

 同時に観光もしっかりし、その土地ならではの食べ物も楽しんだ。





「はぁ……、幸せ」

 ルーブル美術館の近くにある、パリ一区の高級ホテルのスイートルームで、私は窓の外を眺めながら吐息をつく。

 暁人は後ろから窓枠に手をつき、その間に私を閉じ込める。

「これからもっと、芳乃の口から『幸せ』って言わせてみせるよ」

 微笑んだ彼は、チュッと私にキスをして魅惑的に微笑んだ。




 完
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