八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~

助けてくれたのは

「顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

 副社長に尋ねられた私は、ハッとして震える手を片手で包み、笑みを浮かべる。

 いまだ心臓はドッドッと早鐘を打っているけれど、面接を持ちこたえられたら十分だ。

 すると副社長は私から視線を外し、手元の用紙にサラサラと何かを書く。

 ――何を書かれたんだろう。

 ――挙動不審だったから、何かマイナスな事でも書かれたんだろうか。

 不安に駆られる中、さらに志望動機を尋ねられ、採用が決まった場合はどの部署で働きたいかを聞かれた。

 最後に給与や勤務態勢などの条件を確認し、私からもいくつか質問をしたあと、面接が終わった。





(死ぬかと思った……)

 面接会場から出た私は、胸に手を当ててドッと冷や汗を浮かべる。

 まさか面接の最中に、発作を起こしてピンチになると思わなかった。

 私はいまだドキドキする胸を押さえ、深呼吸しながらエレベーターホールに向かう。

(あ……っ)

 そこでまた発作に襲われ、私は胸を押さえてしゃがみ込んでしまった。

 バクバクと胸が鳴り、嫌な感情が胸いっぱいに広がる。

 次々に脳裏に蘇るのは、ゴールデン・ターナーで働いていた時の思い出、そしてウィルとレティにまつわる嫌な感情だ。

 ――採用されたとして、また辞める事になったらどうしよう。

 ――うちには巨額の借金があって……。

 ――やっぱりお父さんは、私のせいで死んだに決まっている。

 そう考えると呼吸が荒くなり、貧血を起こしたように脳天からサァ……と血の気が引いていった。

 限界を迎えて気絶してしまいそうになった私は、必死に壁に縋る。

 その時――、

「大丈夫ですか!?」

 男性の声がしたかと思うと、こちらに走ってくる足音が聞こえ、誰かが側に跪いた。

 背中をさすられ、額に手を当てられる。

(温かい。……力強い手……。……お父さんみたい……)

 私はそう思いながら、フ……ッと気を失ってしまった。



**



「ん……」

 人の話し声が聞こえて、私は意識を浮上させる。

 目を開けると知らない天井が目に入り、ギョッとして起き上がると、キングサイズのベッドに寝かされているのが分かった。

 向かいの壁には液晶テレビがあり、窓辺には一人掛けのリクライニングソファがある。

 マンションなのかスイートルームなのか分からないけれど、かなりの高層階にあるらしく、窓から見えるのは空と高層ビルのみだ。

 遠くから聞こえてくる男性の声は、私に気を遣って声量を落としているように思える。

(面接が終わったあとに、また発作を起こしちゃったんだ)

 自分の失態を思いだした私は、深い溜め息をつく。

「しっかりしないと」

 私は呟いてからベッドから下り、足元にあるパンプスを履く。

 念のために確認したけれど、下着に乱れはなかった。

 バッグは部屋にはなく、別の場所に置かれているようだ。

(ここ、どこだろう……)

 私は不安を抱えたまま、ソロソロと部屋を移動していく。

 初めての場所というのもあるけれど、部屋数が多くて迷子になりそうだ。

 寝室の近くにはジムがあり、ルームランナーやエアロバイク、筋トレマシーンが置いてある。

 大きな鏡のあるダブルボウルの洗面所に、地上を見下ろしながらジェットバスに浸かれるバスルーム、十人は座れそうなダイニングルームの向かいにはキッチンまであった。

 洗面所を見た時にアメニティがセットされているのを見て、ようやくここがホテルのスイートルームなのだと理解した。

 そして、ようやく声の主を見つける。

[その件につきましては、ミスターが来日された時にお話したいと思います]

 流暢な英語で話していたのは、面接官だった副社長だ。

 彼は私に気づくと軽く手を上げ、廊下の奥を指さして、そちらに行くよう指示した。

 意図を理解した私は、会釈して彼が指差したほうへ向かう。

「凄い……」

 たどり着いたのはリビングで、何十畳あるか分からない広さがある。

 モダンと和で統一された室内の中央には、チャコールグレーのソファセットがあり、大きな液晶テレビもある。

 さらにグランドピアノやバイオエタノール暖炉まであり、天井からはシャンデリアが下がっていた。

 壁には黒と金を基調とした蒔絵の絵画が掛かり、ティッシュボックスまで蒔絵でできていて、あまりのゴージャスさに溜め息が出る。

(本当に凄い……)

 今までもホテルのスイートルームに入った事はあるけれど、〝エデンズ・ホテル東京〟ならではの良さに感動を覚えた。

 しばらく呆けた室内を見たあと、私はやっとソファの上にバッグが置かれてあるのに気付いた。

「良かった……」

 中身を確認したけれど、なくなった物はないし、スマホを開いても緊急の連絡はなく一安心する。

(副社長が助けてくれたのかな)

 そう思った時、足音がして本人が登場し、私はドキンと胸を高鳴らせる。

「すみません。驚いたでしょう」
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