八年執着されましたが、幸せです ~傷心のホテリエですが、イケメン御曹司と契約恋人になりました~
「ふっ、副社長!」

 彼の姿を認め、私は気をつけをする。

「倒れてしまったんですから、無理をしないでください」

 けれど彼はそう言ったあと「座って」と言ってきた。

 おずおずと高級ソファに腰かけると、向かいに座った副社長に尋ねられる。

「倒れてしまうほど緊張しましたか?」

「いいえ」

 思わずそう言ってしまってから、ハッとして「違うんです!」と胸の前で両手を振った。

「面接に緊張しなかった訳じゃありません! 舐めてたんじゃなくて……っ」

 言葉遣いも忘れて必死に否定したからか、副社長は「あはは!」と笑った。

「焦らなくていいですよ。それに面接はもう終わりましたし、あなたはまだ社員ではないので、畏まらなくていいです」

 ネットで確認したけれど、彼は二十五歳だ。

 屈託なく笑うと年相応に見えて、少し緊張がとれた気がした。

「具合はどうですか?」

「はい。ご迷惑をお掛けしました」

「ここは私がセカンドハウス代わりに使っている部屋なので、気を遣わないでいいですよ。コーヒーか紅茶を飲みますか? それとも冷たい物?」

「あ、じゃあ……コーヒーを」

「了解」

 立ち上がった副社長がキッチンに向かおうとするので、私は慌てて立ちあがる。

「あっ、わ、私が!」

 けれど彼に手で制されてしまった。

「大人しくしていてください。いいですね?」

「……はい」

 言う事を聞くしかない私は、コクンと頷いて再びソファに座った。

(まだ二十五歳なのに落ち着きのある人だな。それに包容力があるし、親しみやすい人だし、…………って、何考えてるの! 面接帰りに倒れて、副社長に助けてもらうなんて駄目でしょ!)

 両手で頭を抱えて悶えていると、やがてコーヒーの香りが漂ってきた。

(……いい匂い)

 そう感じた時に、クゥゥ……とお腹が鳴り、現金な自分が嫌になる。

(……お父さんが死んでから、ろくに食べてなかったな。これから働いていくなら、ちゃんと食べて体力つけないと)

 考えていた時、暁人さんが「おまたせ」とワゴンを押して戻ってきた。

「わぁ……!」

 コーヒーを淹れていたのだと思っていたけど、、ワゴンにはケーキものっていた。

 それも〝至高のK〟で有名な、高級ショートケーキ!

〝至高のK〟シリーズは、新作が出るたびにネットを騒がせ、セレブたちがこぞって買うブランドスイーツだ。

 その高級ケーキをテーブルに置かれ、私は目をまん丸にして見入っていた。

「甘い物を食べると気持ちが安らぎますから、どうぞ食べてください」

 副社長はケーキに見とれている私を見てクスッと笑い、勧めてくれる。

「い、いただきます……」

 私は会釈をしたあと、フォークを手にしてケーキを一口食べた。

「ん……、んン……」

 スポンジがふわっふわで、生クリームが濃厚で牛乳の味がする。それでフルーツがとても新鮮で甘い!

「美味しい……!」

 溜め息を漏らすと、副社長は「良かった」と笑ってブラックコーヒーを飲んだ。

「さっきも言いましたが、この部屋は私物化しているので、休憩時に食べる用の甘い物も置いてあるんです。新作チェックも兼ねてね」

「あ……。副社長のケーキなのにすみません」

「いえ、気にしないでください。私はもう食べてますし、それは予備です」

 彼の言っている事が本当かは分からないけれど、そう言ってくれているならこれ以上深掘りして聞くのは失礼だ。

 面接の時とは違った雰囲気で話していると、彼が年下である事も相まって、どんな距離感で会話をすればいいのか分からず、「これでいいのかな?」という想いが頭をよぎる。

 やがて私がケーキを食べ終わったあと、副社長が切り出した。

「貧血でしたか?」

 尋ねられた私は、どう返答すべきか言葉に詰まる。

 家庭の事情は初対面の人に話すべきじゃないし、パニックになったなんて言ったら、業務に差し支えが出るとされるだろう。

 黙っていると、副社長は心配そうに私を覗き込んできた。

「普通の苦しみ方ではなかったので、心配だったんです。あなたが社員になるなら、ケアの仕方を知っておいたほうがいいと思って」
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