二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~
歩みは止めなかったが、ダグラスは乃亜を見下ろしてペースを緩めた。
乃亜はスプリングを曾祖母春子の名前から取ったものだと自惚れてしまった。でも敷地内に湖まであるなら泉──これも英語ではスプリングだ──があってもおかしくないし、そもそもすぐ近くに有名な温泉地がある。
ダグラスはしばらく無言になった。
まずいことを聞いてしまったのかと身構えて、乃亜が質問を撤回しようとしたとき、ダグラスはそっと視線を夜空に向けた。
「それは俺も聞いたことがある……親父の答えは『両方』だった。ただ……俺は……あれは親父の言い訳だったと思うね。本当は『春』だ。『春』でしかないんだよ」
「でも……どうしてあなたに対して、言い訳なんてする必要が?」
ダグラスは星に向かって切なく微笑んだ。
「俺が若くて愚かだったからだ」
「は……?」
「あまり聞いて楽しい話じゃない。今聞いたら、君の寝つきが悪くなるかもしれない種類の」
──でも、どうしてだろう。
ダグラスはそれを乃亜に語りたいと……他の誰でもない、春子の血筋である乃亜に、それを教えたい、もしくは吐き出したいと……思っているような気がした。
否、もしかしたら「思って」さえいないのかもしれない。
ただ深層意識の中で、そんな希望を抱えている。
きっと。
「わたしは……聞きたいです。教えてくれますか?」
ダグラスは答えずに足元の小石を拾うと、長い腕を優雅に屈伸させて湖の水面にそれを投げた。小石は飛燕のような速さで横にスライドして、水面を四、五回跳ねると、湖の底に沈んでいった。
沈黙。
なぜか、乃亜もそれをやってみたい気持ちになって、足元の小石を拾う。
ダグラスの真似をして湖に小石を投げてみたが、それはスライドすることも水面を跳ねることもなく、いきなりドボンと浅瀬に落ちた。
ぷっ、とダグラスが笑いを漏らす。
自分の行動を笑われたのに、乃亜は嫌だとは思えなかった。
「教えてください」
乃亜が懇願すると、ダグラスは暗い湖の先を見つめたままうなずいた。