二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~

 バタンと乃亜の乗る助手席側の扉が閉められて、やがてダグラスが運転席に乗り込んで扉を閉める。車内にふたりきりになった。
「……?」
 すぐにエンジンをかけるかと思ったのに、ダグラスはハンドルの辺りに焦点の定まらない視線を泳がせているだけで、動こうとしない。

「どうしたんで──」
「ノア、明日の用意はできているのか?」
「へ? ああ……ケータリングですか? ええ、すでに数日分は揃えてありますから。明日は二組しかオーダーも入ってないですし」
「違う」
 ダグラスの声には苛立ちが籠っていた。「明日のピエドラへのトレッキングの話だ。ネイトとの」

 ネイト、のひと言にちょっと怖いくらいの怒りというか……怨念が感じられた。もし自分の名前をこんな風に呼ばれたらきっと震え上がってしまう。
 なんだかネイトが気の毒になってしまうくらいだ。

「なにか特別な装備が必要ですか……? そんなに険しいコースではないと聞いたので、この感じで行こうかなと……靴は運動靴にするつもりですけど」
「慣れていればね」
「トレッキングくらいはしたことありますよ」

 もう何年も前の話だけれど。
 その情報はここでは出さない方がいい気がした。誰に対してもそうというわけではないが、ダグラスは責任を持たなければならない相手に対して、「ダグラスお母さん」と呼びたくなるくらい過保護なのを、ちょっと学んでいたからだ。

「……着替えを持っていった方がいい。水に濡れるかもしれないから。あと飲料水だ。もしかしたらネイトは川から呑むかもしれないが、君は絶対にしない方がいい」
「はい」
 わかりました、お母さん。
 と、喉から出かけたのを自重し、うなずいた。
 するとダグラスはやっとエンジンをかけて運転をはじめた。
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