二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~
「今のはなんだったんだ?」
「た……ただの頬へのキスです……。あなたが欲しいって言ったから」
「君は半年付き合った男とのキスさえ拒んだんだろう。俺が風呂上がりに寝言を言ったからといって、その通りにする必要なんかないんだ」
「寝言は寝ているときに言うんです、たとえコロラドでも。お風呂上りじゃなくて」
「問題はそこじゃない」
「むっ」
乃亜が眉を吊り上げて怒った顔をした。
彼女はだいたいにおいて穏やかな表情を崩さなかったし、これまで何度か見た怒った表情も、「可愛い」の範疇を出なかった。もちろん今回もそれは変わらない……しかし、これまで以上に本気で腹を立てていることは理解できた。
「そんなふうに……すごんでも……もう、しちゃったものは、しちゃったんだから……」
その通りだ、ミス・ヒロセ。
続きは寝室がいいかい? そこのソファでもいいよ。もしくはこのままこの壁を背にすべてを奪ってもいい──君の唇も、君のはじめても、永遠のはじまりも。
そう本音を言えたらどんなによかっただろう。
現実のダグラスには禁じられた告白だった。乃亜のことを思うならなおさら、彼女に不誠実であるべきではない。
わかっている。
わかっているのに、ダグラスの手はまたしても勝手に乃亜の頬に伸びて、その繊細で柔らかい素肌に触れていた。
「どうしてそうやって俺を惑わせたりするんだ」
「わたしはなにも……」
「ノア、言ったはずだ。俺は誰も乗せない馬と一緒だと。君のキスはそんな男にやっていいほど安っぽいものじゃない」
言葉とは裏腹に、ダグラスの身体は乃亜をさらに壁際へ追いつめていた。背を屈めると、もっと彼女の唇に近づく。
乃亜の吐息からは温めたバターのような、どう頑張っても抵抗できない甘くてかぐわしい香りがして、離れられなくなった。
「……笑ったくせに」
乃亜の声は震えていた。
「なにを」
「わたしが処女で、キスもしたことがないって教えたときに。あなたはお腹を抱えて笑ったでしょう?」
「ノア──」
「そのくせ、ほっぺにキスしただけで怒るんですか? しかも、あなたが欲しいって言ったの。わたしだってやろうと思えばできるんです!」