二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~

 肌に触れるか触れないかの、挨拶のキス。
 しかも場所は手だ。
 ネイトは乃亜が、キスの経験さえないことなんて知らない。だから別にこのくらいは問題ないと判断したのだろう。ダグラスだって一度乃亜の手には唇を寄せている。

 でもなぜか、ダグラスを裏切っているような、傷つけているような妙な寒気がして、彼の方を見られなかった。
 とはいえダグラスはなにも言ってこない。逆に興味を示したのはマリアナだった。

「あら、あなたたちはもう仲良しなの?」
「まあね」
 ネイトはまんざらでもないといった感じで、マリアナに向かって意味ありげな笑みを向ける。
「明日の準備はできてるかい、ノア? もしかしたら雷雨(サンダースト―ム)がくるかもしれないって予報だから、合羽も用意しておいた方がいい」
「サンダーストーム?」
「強い通り雨みたいなやつだ。君が来てからまだ一度もないかな。雨はかなり降るし落雷もあるけど、大抵はすぐやむよ」

 乃亜はうなずいた。日本でいう夕立だろうか。
 合羽は持ってきていないけれど、折り畳み傘なら日本から持ってきている。それでなんとかなるだろう。

「どこかへ行くの?」と、マリアナ。
「ピエドラのトレッキングにね。初心者はあそこがいいだろう?」
「温泉もあるしね。ノア、日本にも温泉が沢山あると聞いたわ。行ったら感想を聞かせてね」
「ええ、もちろん……」

 ──『俺が連れていくつもりだったのに』
 ダグラスのささやきが脳裏を横切った。あれは……明日のことだったのだろうか。だったらダグラスは今のこの会話をどんな気持ちで聞いているんだろう。

 でも、彼の方に目を向けることができない。
 もし辛そうな顔をしていたら傷つくし、まったく平気そうにしていても、それはそれでやっぱり傷つく。

 だから乃亜は自分が調理係である利を生かして、彼らに背を向けるとキッチンへ戻った。
 人数が多いのでダイニングテーブルの椅子を増やしたせいもあって、この晩はじめて、ダグラスは乃亜の隣に座らなかった。
 そして夕食後、乃亜をキャビンまで送ってくれたのはネイトだった。
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