二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~

「飲めたか?」
「は……はい……」
 そんな、さも当然のように……。
 それともあれだろうか、例のコンバット・メディックというのはこんなふうにキスで病人に薬を飲ませたりするものなのだろうか? これは医療行為で、こんなことで動揺する乃亜はおかしいの?

 ダグラスの顔がさらに近づいてきて、ふたりのおでこがコツンと当たった。
「悪い……」
「……?」
「状況を利用させてもらったようなものだな」

 なんだかもう言葉も出なくて、乃亜はじっとダグラスの灰色の瞳を見つめる。もし熱がなかったらもう少し冷静になれたかもしれないけれど、今の乃亜には無理な話だった。

「わたしたち、キスをするのに……言い訳がいるの?」
 ダグラスからの答えは、喉の奥でなにか聞き取れない言葉を低くうなる、というものだった。
「俺にとっては」
「わたしは……いいのに」
「例のシェフにはさせなかったのに?」
「キスそのものが嫌だったわけじゃないんです。むしろ憧れてました。ただ……勝彦さんとは……」

 勝彦さん(例のシェフ)とダグラスの違いはなんだろう。
 乃亜とダグラスでは、生まれも育ちも、もっと言えば人種も国籍も母国語さえも違うのに、なぜか失われていたパズルのピースがぴたりとはまるように繋がることができる。

「ノア、そうやって俺の決心をぐらつかせるのはやめてくれ。どちらにしても、こういう話は君の熱が下がってからにしよう」

 ああ……そうだ。
 この誠実さかもしれない。ぶっきらぼうすぎて最初は冷たく感じる、でも一度知ってしまうと心から信頼できる、誠意。

「そうですね……。あなたに風邪が移っちゃったら……大変だし」
「そんなことはどうでもいいんだよ」
「明日の朝……ケータリング……できなかったら、ごめんなさい」
 ダグラスは首を横に振った。
「例の婆さんに頼むよ。だいぶ良くなったと言っていたから、俺が行って手伝えばなんとかなるだろう。客は君の料理の方を恋しがるだろうけどね」
「ふふ、わたしが帰国しちゃったらどうするんですか?」

 乃亜はからかうつもりで言ったのに、ダグラスの動きがちょっと可哀そうなくらいピタリと止まって、身体を固くするのがわかった。
 乃亜が帰りがたいと思っているのと同じくらい、ダグラスも乃亜に帰って欲しくないと……思ってくれているだろうか。

「……どうするんだろうな」
 彼は静かに言った。
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