二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~
「ず、ずっとここに……?」
「吐くかもしれないのに、ひとりにはしておけないだろう」
と言って、パタンと本を閉じる。
日本でも邦訳されている社会派ハードボイルド小説だった。ものすごい読書家かと問われたらおそらく違うが、乃亜は本が好きだ。こんなときに、好きになるべきではない男性にさらに惚れてしまうなんて、愚かにもほどがある。
ダグラスはこちらに身体を傾けて、乃亜の額に片手を伸ばした。大きくて冷たい手が、ぴたりと乃亜のおでこを包むように触れる。
「薬は効いてるみたいだな」
「多分……。だいぶ楽になりました」
「それはよかった」
ベッドサイドのランプしか光源のない薄闇の中で、ダグラスの髪は赤銅色に映った。
普段の彼は帽子を被っていることが多いし、短めなので特にセッティングしているわけではないけれど、いつもより乱れた寝起きのような髪は……きゅんと下腹部のあたりが切なく疼く。
乃亜はいろんな衝動を我慢するために、きゅっと下唇を噛んだ。
「無断で悪いが、いくつか荷物をここに運んでおいたよ」
「荷物?」
「すぐに必要になりそうなものだけだ。あとは貴重品。パスポートは手近にあった方がいいだろう」
ダグラスが顎で指した先を見ると、キャビンにあったはずの乃亜のリュックといくつかの着替えが椅子の上に置かれている。
ということは……ダグラスはあれから乃亜のキャビンに入ったのだ。
「ご、ごめんなさい、カーペット……」
ダグラスのことだ。そのまま放置したということはないだろう。お……推しに吐瀉物を掃除させてしまったかもしれないなんて! 穴があったら入りたい!
「ノア、人間の吐瀉物なんて綺麗なものだよ。俺は七歳のときから腹を下した牛の糞を掃除して生きてきたんだ。気にすることじゃない」
「うぅ……スミマセン……」
「喉に詰まらせなくてよかったよ。また吐きたくなったらすぐに横を向くんだ、いいな?」
「ハイ……」
吐き方の指導まで受けてしまった。なんだかもう、一周回ってこれから強く生きていけるような気さえしてくる。