二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~
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「お嬢ちゃん! もう具合は大丈夫なのかい?」
馬の厩舎とは車で十分離れた距離にある牛用の厩舎は、また少し違う獣の匂いがして乃亜は周囲を見回した。
外にピックアップトラックを停めた乃亜を出迎えてくれたのはホセだ。
仔牛はまさに今生まれようとところで、ダグラスはそれに付きっ切りなのだという。
「昔からダグラスの旦那はこれが得意だったんだよ。彼がいない間は大変だったなぁ。魔法みたいだからよく見ておきな」
そこは面積的には馬の厩舎よりもずっと広かった。
設備の類はダウングレードしているような気もしたが、もしかしたら牛の方が丈夫で、必要性がないだけなのかもしれない。
厩舎内をたっぷり数分歩いた先に、ダグラスはいた。
干し草がいっぱいに敷き詰められた地面に片足でひざまずいて、寝そべった大きな牝牛の隣にいる。乃亜が近づくとダグラスは顔だけ上げて微笑んだ。
「おいで、東京のお嬢さん」
乃亜も微笑み返した。
この日のダグラスは普段のカウボーイ装備に加えて、厚手のビニール手袋のようなものを右手にしていた。足元の馬はモーモーと痛切に泣いている。
それもそのはず、牝牛の臀部からはなにかこう……ヌルっとした膜に包まれた突起物が、黄土色の粘液と共に垂れ出していた。
「そ、それは仔牛の足……ですか?」
「そう。なかなか頑固な子だ。そろそろ引っ張らないと」
「引っ張る!?」
ダグラスはうなずくと足元に用意してあったロープのようなものをその足に掛けた。その間にも牝牛の膣からは粘液というか、おそらく羊水が滝のように流れ出ている。嫌な臭いではないがかなり生々しかった。
「やってみるか?」
ダグラスに誘われて乃亜は彼の背後に立ったが、自分がこれに関われるような気はまったくしない。だって! だって……!
「そんな、わたしなんかがいきなりできるものなんですか? なにか獣医の資格とか、コンバット・メディックの特訓とか、そういうのをしたあとじゃないと……?」
「俺も一緒にやるよ。君ならできる」ダグラスは保証した。「あのポンコツ車でここまで辿り着けたんだから」
乃亜は心を決めた。
「わかりました。や……やってみせます」
だってこれは下手にプロポーズされるよりすごいことだ。おそらく。きっと誰にでも頼むことじゃない。信頼に基づいた懇願で、生命の誕生に一緒に立ち会うという奇跡的な一瞬で、おまけに下心の入る余地が一切ない。
乃亜はダグラスのすぐ隣に両膝をついて、切ないモーモーを繰り返す牝牛を見つめた。