二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~
いつまでも笑いの止まらない灰色の瞳の長身美形カウボーイを前に、乃亜はついに自分も笑うことにした。
真っ黒に汚れた乃亜のチェック柄フランネルシャツと引き換えに生を得た仔牛は、驚いたことに、すでにヨロヨロと立ち上がって干し草の上で遊んでいる。
さらに驚くかな、フランネルシャツを脱ぐと下に着ていたTシャツは無事だった。
さすがの装備だ。
やはりカウボーイの恰好には、きちんとした意味と意義があったのだ。
「もうっ、十分笑ったでしょう? そろそろ終わりにしてください」
余ったタオルで他の部分を拭きつつ、乃亜は抗議した。
当のダグラスは、出産のために設けられたスペースの柵に突っ伏すようにして、まだ肩を揺らして笑っている。
乃亜に言われてやっと顔だけ上げたが、彼の目尻には涙が溜まっていた。
「わ……悪い。こんなに笑えたのは久しぶりだ」
「そう遠くない過去にわたしの処女について大笑いしたばかりでしょう? いつも笑ってばかりじゃないですか」
乃亜は拗ねたつもりだったのに、ダグラスに反省の色はほとんど見えず、姿勢を正すとゆっくりこちらに向かって歩いてくる。
目の前まで来るとダグラスはギュっと乃亜を抱きしめた。
「俺はそんなに笑ったりする男じゃない。嘘だと思うならホセに聞いてみるといい」
ああ。
そんなことを、そんなに優しい声でささやかれたら……もうなにも言えなくなる。黙って抱きしめられていると、ちょうどホセが通りかかった。
「その通りだよ、お嬢ちゃん。ダグラスの旦那がこんなふうに心から笑うのを見るのは何年ぶりかな。さて、ほらよ」
……と言ってホセがこちらに手向けてきたのは、びっくりするほど巨大な哺乳瓶だった。多分二リットルのペットボトルより大きい。でもちゃんと吸い口が人間の哺乳瓶と同じ形をしている。ただ十倍サイズなだけで。
「そこの仔牛にあげてごらん」
ホセは言った。
「母親がそこにいるのに、わたしたちがあげるんですか?」
「中身は本物の牛の乳だよ。悪いけどそこの牝牛には人間のための牛乳も出してもらわなきゃならんし、仔牛は俺たちに慣れてもらわなきゃならん。これが一番効率いいんだ」
なるほど。
そもそも、その母親が興味なさげに干し草を食んでいるし、乃亜自身も……ちょっとあげてみたいと思った。巨大哺乳瓶。
そんなわけで乃亜は、ダグラスとホセに見守られながら、生まれたばかりの仔牛に哺乳瓶をあげて餌付けした。
その仔牛は白より黒の多いまだら模様で、今はまだバンビみたいに華奢で可愛らしく脚がプルプル震えていて、乃亜が構える哺乳瓶の中身を本当に美味しそうにぐんぐんと飲んだ。
「やだ、可愛い……。こんなの癖になっちゃいそう」
もっと欲しがって吸い口を歯で引っ張る仔牛と哺乳瓶の引っ張り合いになりながら、乃亜は笑い、ダグラスもまた笑って、その日の午前中は過ぎていった。