二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~
なにが起きたのか、まだ認識しきれていない呆然自失の乃亜に、ソフィアは話しかけてきた。
「ダグラスはああ言ったけど、本当はあなたたち……付き合っているんでしょう?」
乃亜は、自分の中にこんな凶暴性があるなんて知らなかった。
できるならこの女性に飛びついて、思いっきり引っ搔いてやりたい衝動に駆られる。でもグッと我慢した。
──もし、この女性がダグラスの想い人だったらどうするの? ダグラスの好きな女性を傷つけるの?
そんなことは許されない。
「本当です。彼の言った通り、わたしたちは付き合ってなんかいません」
「別に隠したりしなくていいの。急に話しかけてごめんなさい。ダグラスが本当に幸せそうな顔をしていたから……どうしても確認したくなって」
乃亜の自制心がもう少し弱かったら、この瞬間、きっと本当にこの女性に飛びついていた。
でも乃亜は二十四年の人生でいくらか自戒や自律を学んだ。異国のスーパーマーケットのど真ん中で、自分の味方になる唯一の人物は逃げ出したあとで、たったひとり。名前しか知らない女性に襲い掛かったってなにも解決しない。
「あなたには関係ありません」
本当に。
このソフィアが乃亜と関係ないのと同じくらい、ダグラスにだって乃亜とはたいして関係なかったのだ。
たまたま牧場に現れた養父のひ孫。それが乃亜。スーパーマーケットに置き去りにできる程度の存在。
泣きたくなったがそれが現実で、ぎゅっと涙を我慢する。
きっと泣く時間はあとでいくらでもある。
今は──このソフィアの前では凛としていよう。乃亜は長年のバレエで培った、女としてできる最も優雅な姿勢で恋敵と対峙した。
「そうは思わないわ」
ソフィアは静かに言った。「あなたたちふたりの障害になっているのは、きっとわたしだから。少なくとも、過去のわたしが」
「だとしても、あなたになにか言われる筋合いはありません。どいてください。会計しなくちゃいけないので」
幸い、乃亜の手元にはダグラスが渡してくれたアメックスのビジネスゴールドがある。少なくともこの点において、ダグラスは無責任ではなかった。
ただ会計を済ませたとして……どうやって牧場まで戻るかは、まだわからなかったけれど。