二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~
それでもダグラスにはひとつだけ、彼らになかった幸運を持っている。
乃亜はここ、自分のすぐそばにいる。
まだ手を伸ばせば届く距離に、彼女はいるのだ──とはいえ、そんな彼女をスーパーマーケットに置き去りにしてしまった事実は消しがたく、ダグラスは三十八頭の馬に向かって乾いた笑いを漏らした。
「お前はもう終わりだよ、ダグラス。今頃ノアは荷物をまとめているんだ」
そうなったら、どうやって彼女を追いかけていこう?
ダグラスはデンバー国際空港が嫌いだった。あれはダンテ神曲の地獄の門だ──この門をくぐる者はすべての希望を捨てよ。
そういえば乃亜は一度、熱に浮かされて元カレの名前を漏らした。
カツヒコだったか? 日本にいったい何人のカツヒコがいるのか知らないが、ミシュランレストランでシェフをしているカツヒコの数はそう多くないだろう。日本全国すべてのカツヒコを殺し歩かなくて済むはずだ。多分……。
畜生、もうひと口、ウィスキーが必要だ……。
「ダグラス? ここにいるの?」
急に乃亜の声の幻聴が聞こえて、ダグラスは呑む手をとめて答えた。
「ああ、ここだよ。俺の隣にきてくれ、ノア! 君が必要なんだ。俺をこの泥沼から救ってくれ」
「わかりました」
幻の乃亜はやけにあっさり答えた。
ありがたい。アルコールの力は偉大だ。たとえ幻でも、乃亜に居心地の悪い思いはさせたくなかったので、ダグラスは自分が座っている周囲にある干し草の山を少々整えた。
数秒後、足音が聞こえて、ダグラスの前に乃亜が現れた。
少し赤い目をしている。
ダグラスの心はすぐに痛んだ。
「君を泣かせた男は誰だ?」
と、馬鹿なことを言ってすぐに気がついた。
「……俺だな。ごめんな」
「いいんです……。あなたこそ目が赤いですよ。どうして泣いているの?」