二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~

 * *



 春子は窓辺の安楽椅子に座って、小さな庭に植えてある垣根の緑を見つめていた。
 猫の額のような小さな洋風庭園だ。

 ──もしコロラドに行っていたら、今、春子が眺めていたのはどんな風景だっただろう?

「ふふ……馬鹿げてるわね」

 九十七歳──そうだったわよね?──という年齢としては、春子はまだ庭の緑を判別できる程度の視力もあるし、ここが東京の自宅でコロラドではないという現実を忘れないでいられる程度の、記憶と認識も残っている。

 それでも寄る年波には勝てなかった。
 乃亜をコロラドに送ったのは何日前だっただろう?

 差をつけるつもりはないが、乃亜は月子に次いで春子が最も愛情を注いだ子供だった。
 春子が産んだのはふたり。
 ウィリアムの月子と、夫との間にできた男児・聡だ。

 聡にはすでに子供がいるが孫はまだいない。
 月子は……直美を産んですぐ体調を崩し亡くなった。母なし子の直美を育てたのは春子だった。そして直美が比較的早く結婚したうえに、キャリアの大事な時期に娘を産んだために、その娘……乃亜を育てたのもまた……春子だった。

 春子はいつまでもウィリアムの種を手元に残し、大切に守ってきたのだ。
 それが、春子にできた唯一の、彼への愛情の示し方だった。

「おばあちゃん、乃亜から連絡がきたわよ。一度は伸ばすって言っていたくせに、結局予定より早く帰ってくるんですって。だから言ったのに。アメリカなんかで変な虫がついちゃったらどうするの」

 仕事を終えた直美が、帰宅するなりそう告げた。
 春子はスマホを持っていない。通話をするための携帯電話は所持しているが、それだけだ。だからコロラドにいる乃亜の様子は直美を通じてぽつりぽつりと聞いただけだった。

「日本でついた変な虫よりは、いいんじゃないかしら」
 春子はぽつりとつぶやいたが、直美はあまり真剣にとりあわずにキッチンに消えていった。

 直美は決して薄情ではない。
 ただサバサバした淡白なところがあって、それが長所でもあるが、春子や乃亜とは性質が違うところだ。

 乃亜は……外見もそうだが、心の中まで、まさに春子の生き写し……現代版だった。

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