二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~

 ふたりの、ふたり目の子供はすでに十五週目に入っていて、すでに超音波検査で性別もわかっている──男児だ。
 ダグラスも乃亜もまだ口にはしていないが、おそらく心の中で名前は決まっている。まあ、それは……おいおい決めていけばいいことだ。

 ダグラスは湖畔にその姿を映す月を見上げた。
 満月だった。
 ルナ──『月』──が生まれたのも満月の夜だった。あと何度満月を数えれば、ダグラスは「ウィリアム」に会えるだろう?

 その子の生きる世界が平和であることを願う。
 その子の一生が幸せであることを信じている。

 ダグラスは父親であるウィリアムの最期を思い出した。
 ウィリアム・マクブライトは春子をその腕に抱いて、マクブライト邸のベッドの上で息を引き取った。ダグラスと乃亜が留守にしているあいだのことだった。
 世話を頼んでいたヘルパーでさえ、彼らは昼寝をしているだけだと思い込んでいたほど、静かな去り際だった。

 ──おそらく、先に亡くなっていたのは春子さんの方だったでしょう。

 病院で死亡診断書を書いてくれた医師がそう言ったときの衝撃を、ダグラスはよく覚えている。春子はウィリアムの腕の中で息を引き取っていた。
 ウィリアムには、まだいくらか時間があったはずだ……。しかし、彼の心臓は春子と供に行くことを選んだのだ。

 その行き先がどこでも。
 ウィリアムは最後まで春子の手を離さなかった。

「ノア」
「はい?」
 ダグラスと乃亜の会話は今でも基本的に英語だった。ただ、ダグラスも多少は愛する女性の母国語を嗜みはじめていて、いくらかは喋れるようになっている。

 それでもひとつだけ、ダグラスは五年前に父と仰ぐ大切な男性が教えてくれた一節を、毎日……毎晩、妻の耳元にささやいている。

 乃亜は、肩に娘を乗せた夫を見上げて微笑むと、ぎゅっと繋いだ手に力を込めた。ダグラスはわずかにかがむと、心を込めてささやいた。


『月の綺麗な夜ですね』



【二度目の永遠 ー 了】




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