二度目の永遠~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~

 乃亜の立つ牧草地はとにかく広くて平らで、「どく」と言ってもどこへ移動するべきか判断しかねた。いくらか避けたところで、なにか違いがあるだろうか? まだ一度乗っただけだが、もしチャンピオンならきっと向こうから避けてくれるはず……。

 しかし、漆黒の馬はすごい勢いで一直線に乃亜を目指して駆けてくる。
 それはまるで赤い布に向かって突進してくる闘牛の雄牛……。

 ──本当だ、これはまずい!
 と、自覚に至ったとき、馬はすでにかなり接近していた。
 乃亜は渾身の力で横に飛び跳ねた。そのまま勢いで草の上を数回、回転する。

 馬はすぐに方向転換はできないらしく、まさに乃亜の立っていた場所をなぎ倒すように爆走していった。

「……あ……」
 二時間に及ぶ厩舎の掃除で痛んでいた手首も、擦り傷のついた脚も、もう気にならなかった。ドクドクと痛いくらいに心臓が鳴る。

「ノーチェ! どうっ!」
 地面に這うように倒れたままの乃亜は、そんなダグラスの怒声を遠くに聞いた。
 本当に憤怒しているような叫び声だ。彼には何度かきついことを言われたけれど、そんなのはただの甘いささやき同然だった……と思えるくらいに、険しい声が。
 乃亜は恐る恐る顔を上げた。

 もう、立ち上がっても大丈夫だろうか。なにもない牧草地の真ん中に立ったら、また気の立った黒い馬の標的になったりして……。

 というか、ダグラスは大丈夫だろうか?
< 87 / 287 >

この作品をシェア

pagetop