一年で終わるはずの契約結婚でした 〜離婚まであと一か月、夫が私を離しません〜
「社長、決裁の書類です。まだ、サインを頂けていません。」

声をかけると、相馬社長は少し遅れて顔を上げた。

「ああ……そうだったな。」

そう言って、机の上から決裁書を一枚取り、ペンを走らせる。

けれど、その動きはどこか鈍い。

署名を終えても、すぐに次へ移ろうとしない。

「何か、お困りごとでもあるんでしょうか」

思い切ってそう尋ねると、社長は一瞬だけ視線を泳がせた。

「ん?」

「先ほどから、社長は上の空です。」

責めるつもりはなかった。

ただ、気づいてしまっただけだ。

社長は小さく息を吐いて、苦笑する。

「……そうかもな。」

そう言って、また一枚、決裁書を手に取る。

けれど、やはりペンは止まりがちで、いつものような迷いのないサインにはならない。

仕事ができる人ほど、心ここにあらずなときが分かりやすい。

私はそれを、秘書という立場で、誰より近くで見てしまっている。
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