一年で終わるはずの契約結婚でした 〜離婚まであと一か月、夫が私を離しません〜
「悩み事なら、聞きますよ。」

その一言で、社長の手がぴたりと止まった。

しまった、踏み込みすぎたかもしれないと思い、慌てて言葉を継ぐ。

「あの……もちろん、私が答えられる範囲ですが。」

取り繕うように笑ったけれど、社長は何も言わず、じっと私を見ている。

その視線に、胸の奥がひやりとした。

「君には……結婚したい相手はいるか。」

「えっ……」

思いもよらない問いに、言葉が喉につかえる。

視線を逸らしたまま、曖昧に答えるしかなかった。

「いえ、まだ……そういう人は……」

「そうだよな」

静かな声だった。

その瞬間、何かがすとんと胸の奥に落ちた気がする。

ええ、確かに私は仕事に没頭していて、恋愛に時間を割く余裕なんてなかった。

社長の秘書として、求められる役割を果たすことだけで精一杯だったのだから。

——そう思い込むことで、自分の気持ちから、目を逸らしてきただけなのに。
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