御堂先生は溺愛中
英語教科室がある棟の一階の隅にその部屋はあり、中に入ると古い紙の匂いが漂っていた。
壁沿いにある棚には、進路に関係がありそうな本が詰まっているが、凛にはこれをどう活用すれば進路先が見つかるのか全くよく分からなかった。
「おっと、先客か。」
凛が本棚を見上げながら呆然と立ち尽くしていると、相談室にドアが音を立てて開いた。
その声の方に視線を送ると、スーツ姿の男が立っていた。
「あ、佐野先生。」
凛がそう言うと、「ああ、大野か。久しぶりだな。」と佐野も返した。
佐野は、凛が1年生の時の数学を担当していた教師で、
若くそこそこにビジュアルもいいので、御堂までとはいかずとも一部の生徒に人気だ。
「大野も、もう進路について悩む時期かー。早いなあ。」
そんな風にしみじみと言いながら、佐野はそこら辺に置いてあった資料をペラペラとめくる。
「早すぎますよ。私なんもやりたいことなくて、進路希望調査書に『わかりません。』って書いたら古賀先生に怒られたんですよ。」
口を尖らせてそう言う凛に、佐野はゲラゲラと笑いながら「お前アホかよ。」と突っ込んだ。
それ、海斗にも同じこと言われたんですけど…
凛は更にご機嫌斜めになりながら、「アホじゃないもん。」と小声で言い返した。