いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

3. あったかい



「一生...」

 落ちてきた声を辿って顔を上げる。そこには、大急ぎで来てくれたのが一目でわかるほど肩を上下させた一生が居て、すぐ後ろからぬっと顔をのぞかせていた。

 自然と上目遣いになると、いつもとは逆向きの綺麗な茶色い瞳があって、私の黒色の瞳と視線が絡んだ瞬間、ふわっと細められる。

 まるで、もう私が泣いていないのを確認して安堵したみたいな仕草が、傷を負った心にまたじんわり馴染んでいった。

 嬉しい。さっきまで泣いていたはずなのに、私はふにゃっと笑ってお礼を口にした。

「....ありがと、きてくれて」

「....ん。いいよ、いつものことだろ」

「...む。....うん」

「ふはっ....やっぱり、百面相」

 ゆっくり隣に回った一生が吹き出して、秋の夜風に吹かれてひんやりした私の頬をむにっとつまむ。何を言うかと思えば、さっきの『しりとり』で言われた自分の“中身“で、肩をふるわせているではないか。

「...ぶう」

 悔しくなって不満だと唇をすぼめたけれど....実はそれほど嫌じゃない。なんでかなって考えたら、多分、目の前の幼馴染が、すごく楽しそうだったから。

 歴代の彼氏たちは嫌がったこの“中身“も、一番自分をよく知っている一生が笑ってくれるなら、それほど悪いものじゃない気がしてくるから不思議だった。

「くくく、悪い悪い。そんな拗ねるなって。....腹減った?」

 今度は、よしよしと頭を撫でられてその手が優しかったから簡単に溜飲を下げてしまう私は、やっぱり百面相だ。

「うーん、お腹も減ったけど、パフェ食べたい」

「はいはい。仰せのままに、お嬢様」

「わーい」

「ん。....つめた。冷えすぎ」

 並んだ一生は、私の手を大きな手で包んで歩き始めた。秋の気候と緊張していた身体のせいで、血液は指先まで巡っていなかったらしい。冬の手みたいに凍えていた。

「あったかい....」

 一生はこういう時、必ず手を繋いでくる。私に彼氏ができたら絶対しないのに、別れてやけ食いややけ酒に付き合ってもらう時だけ。

 子供の頃にタイムスリップした気分だ。

(私が泣いてたら、手繋いでくれてたな....)

 この歳になって何を言っているんだと思うかもしれないけれど、落ち込んでいる時の一生の手は頭を下げたくなるくらい有り難い。

 さっきの電話の言葉も。
 会えた瞬間細まる目も。
 この大きな手も。

 ホットケーキにバターが溶けてしみこむみたいに、ざっくり抉られた傷にじゅわっと馴染んで広がって、一生と会った翌日には瀕死から軽傷くらいに回復しているのだから。私にとって、一生との時間は失恋した時の特効薬だ。
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