婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
「まあ、ミラ。いいところに来ましたね」


 母であるブライズ侯爵夫人に声をかけられ、ミラジェーンは執務室から逃げ出したくなった。

 しかし逃げたところで、母がすんなり逃してくれるはずもないとミラジェーンは承知していた。

 五秒で諦めて笑みを浮かべたが、すでに手遅れだった。


「ミラ、笑みを作るのは一秒以内でと教えたはずですよ」

「申し訳ありません、お母様。逃げ出すかの判断が遅れました」

「時は金なり。ブライズ侯爵家の者は一銭たりとも無駄遣いを許しません。本題に入りますが、来月の社交パーティの装飾担当にミラを任命します」

「それは」


「次期オリン公爵婦人となれば、それくらいできて然るべきです。予算はこのくらい。参加者はわたくしから招待状を送りますが、招待状の用意はあなたがなさい。招待客には事前に事情を説明して、厳しく評価するようお願いしておきます」


 母の表情は厳しくも穏やかでも笑顔でもない、ただの真顔だった。つまり本気であり、気を引き締めて取り組まねばならないとミラジェーンは覚悟を決めた。

 とはいえ、始めてみれば大変ながらも楽しかった。

 母と相談してテーマを決め、予算に沿ってテーブルウェアや料理、飾りを整えていく。


「……楽しいっ」


 テーブルクロスを商人と相談して予算ぴったりに収めたミラジェーンは、商人を見送ったあと、玄関ホールで拳を握りしめた。


「そこで一息つくのではなく、ガッツポーズをするのがミラらしいな」


 いつの間にか、アドルフが笑みを浮かべながら階段を降りてきた。


「だってお兄様、イメージにぴったりの品でしたの。それが予算ちょうどだなんて、これは運命ですわね」

「運命というのは、もう少しロマンチックな場面で使う言葉だと思うが……。ところで、午後は出かけるんだろう?」

「はい、オリン公爵家に行ってまいります。オリン公爵婦人が今回のパーティ用にドレスをしつらえてくださるのです」

「ほう、ありがたいことじゃないか。エリオットくんとお揃いかい?」

「おそらく」

「デザインが決まったら教えてくれ。エース殿下に内通するから」

「お止めください……」


 ろくでもない提案ばかりするアドルフを一応止めてから、ミラジェーンは自室へ戻った。

 午前中にやらねばならないことは、まだ多く残っている。

***

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