婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
 午後、昼食を済ませたミラジェーンがオリン公爵家へ向かうと、公爵婦人が満面の笑みで出迎えてくれた。


「よく来てくれたわね。さあ、こちらへ」

「ありがとうございます、オリン公爵婦人」

「ふふ、そんな他人行儀な呼び方はおよしなさい。あら、エリオットは?」


 公爵婦人は衣装室に着くと、首を傾げた。

 侍女が困った顔を公爵夫人に向けた。


「エリオット様は用事があるとおっしゃって……」

「まあ、婚約者のドレスを決めるより大事な用事なんてありませんよ。ごめんなさいね、ミラさん。息子にはあとでしっかり言っておきますから」


 ミラジェーンは苦笑して首を横に振った。エリオットが自分のドレスに興味を示さないであろうことくらい、彼女には分かっていた。


「お気になさらず。エリオット様もお忙しいでしょう」

「本当によくできたお嬢さんだこと。今度爪の垢を分けてほしいくらいだわ。エリオットにはジョッキで飲んでもらいたいし、ルーシーもね……」

「とんでもない。ルーシー様は素晴らしい方ではないですか」


 ミラジェーンが驚いてそう言うと、今度は公爵婦人が苦笑した。


「それは王城での話でしょう? あの子ったら、家ではね……」


 婦人が言いかけたとき、扉が叩かれた。


「失礼いたします、奥様。仕立屋の者が参りました」

「あら、じゃあルーシーの秘密はまた今度。通してちょうだい」


 仕立屋が数人やって来て、手際よく仕事を始めた。

 公爵婦人と生地の相談をする者、ミラジェーンのサイズを測る者、生地の見本を運ぶ者がいる。


「ミラさんは小柄だから、軽めの生地がよさそうね。靴はヒールを高めにして、コルセットをしっかり締めましょう」

「はい!」


 ミラジェーンが頷くと、婦人も満足げに頷いた。

 そして、運び込まれた膨大な生地をひとつひとつ確認し、納得のいくものを選んでいった。

 ここで納得するのは公爵婦人であり、ミラジェーンは値段が分からないことに落ち着かなかった。


「こんなものかしらね」


 ようやくオリン公爵婦人が満足した頃には、ミラジェーンはぐったりと疲れ果てていた。


「あら、お疲れかしら。ふふ、ずいぶん長いこと付き合わせてしまったものね。お茶とお菓子を用意させましょう」

「すみません……」

「いいのよ。初めてなのだもの。ブライズ婦人と頑張ってね」

「ありがとうございます……!」


 オリン公爵婦人の励ましに、ミラジェーンはますます成功させなくてはと密かに決意し、拳を握り直した。


「今回のドレスは、意匠をエリオットと揃えてありますから、当日を楽しみになさっていてね」

「はい、ありがとうございます」


 もしかすると、それが照れくさくてエリオットは席を外したのかもしれない。

 ミラジェーンはそう考えながら、オリン公爵家の侍女が用意したティーカップを受け取った。
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