婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
 昼食後、ミラジェーンは父であるブライズ侯爵とともに、エースに伴われて薬草用の温室へとやって来た。彼女の肩には、ルーシーから贈られた紫と銀のガウンが掛けられていた。

 昼食時にエースが


「雨上がりで冷えるし、せっかくだから先程義姉上から贈られたガウンを羽織るといいよ」


 とブライズ侯爵の前で言われ、断ることができなかったのだ。

 もともと紫のガウンを羽織っていたため今さらではあるのだが、それよりもさらに意図が露骨であり、ミラジェーンはそれを着て城内を歩くことに落ち着かなさを覚えた。


「ミラ、そちらがルーシー様から贈られた品かい?」

「はい……」

「なるほど……そうか。そうよなあ」


 ブライズ侯爵はなんとも言いがたい顔で頷き、それ以降何も言わなかった。

 三人は温室に到着すると、庭師から話を聞いた。途中で薬剤の調合を担う調剤師と医師も加わり、薬草の栽培から調剤、配布方法に至るまでの一連の流れを確認した。さらにそれらにかかるコストや民間人への説明など、考えるべきことは山のようにあった。

 ミラジェーンが庭師から話を聞いていると、視線を感じた。顔を上げると、エースが笑顔で彼女を見ていた。


「殿下、なにかございましたか?」

「あまりに楽しそうだから、つい見ちゃった。ごめんね、邪魔をして。続けてくれ」

「はあ……?」


 その様子をブライズ侯爵は近くで見ていたが、すぐに軽く首を振り、調剤師と医師との相談に戻った。

 夕方、ミラジェーンはブライズ侯爵とともに馬車で帰路についていた。


「近いうちに登城して予算を詰めねばなりませんわね。財務部の者にも話を通さねばなりませんし」

「そうだな。ところでミラ、エリオットくんとは何か約束をしているのかい?」

「エリオット様とですか?」


 ブライズ侯爵は娘の顔がわずかに曇ったことを見逃さなかったが、口には出さず、ミラジェーンが話し出すのを見守った。


「来月頭にオリン公爵家の庭園を案内していただく予定です」

「来月か。……いや、いいんだ。わかった」


 それきりブライズ侯爵は何も言わず、ミラジェーンも話しかけなかった。

 彼女は新しい仕事について考えることと、羽織ったガウンの裾に施された刺繍を見つめることに忙しかった。
 
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