婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
数時間後、三人は執務室を後にした。
ブライズ侯爵は食堂へ向かい、エースとミラジェーンは並んで第三温室へ向かった。
温室にはすでに昼食の支度がされており、以前と同じように三段のケーキスタンドには、ケーキではなく肉の詰まったサンドイッチやサラダ、挽肉と根菜を詰めたパイにガレットが並べられていた。
「……なぜケーキスタンドに盛り付けられていますの?」
「運びやすいし、全部同じ場所にあって取りやすいから」
「そうではありますが……」
エースは一番下の段のサンドイッチとサラダを侍女に取り分けさせ、ミラジェーンにも勧めた。
「こちらのサンドイッチ、美味しいですわね」
「うん、先ほど話したインサラータ伯爵の新しいドレッシングを使っているよ」
「お肉にも野菜にも合いますのね」
「香辛料を多めに、やや辛めに味付けしてあるね。値段は……」
「原材料や手間を考えれば妥当ですが、なかなかいいお値段ですわ……」
二人はのんびり雑談しながら食事を終え、その後エースが取り出した北部の男爵からの手紙を一緒に覗き込んだ。
そこには検討中と思われる工事計画が簡潔に記されていた。
基本的には著名な観光地へ向かう行路から順に整備したいという内容であった。
「よろしいかと思いますよ。使用頻度の高い道から整備するのは当然です」
「大きい道から整備されれば、より多くの人が行き来できるしね」
二人は意見を交わしたのち、男爵の待つ城内の応接室へ向かった。
ミラジェーンがエースと共に応接室へ入ると、男爵が立ち上がり、応接セットの向かいに座っていたルーシーも振り向いた。
「ご無沙汰しております、男爵。ルーシー様もいらっしゃいましたのね」
「そうなの。先日試着していただいたドレスの改良版を持ってきてくださったと伺ったから」
「はい。観光中にお召しいただく品ですので、動きやすさと軽さ、それから着替えやすさも考慮しております。また、汚れにくさも重視いたしました。併せて靴もご用意いたしましたので、ルーシー様、ミラジェーン様には、それぞれご試着のうえご感想をいただければと存じます」
男爵がルーシーとミラジェーンの前に差し出したドレスは、それぞれ濃紺と銀色であった。銀色のドレスは、幅広の紫のリボンで胸下を結ぶ作りになっていた。
「先日ルーシー様よりご依頼いただいたガウンと合わせてご着用いただけるよう、デザインいたしました。……ミラジェーン様、いかがでしょうか?」
「……わたくしに、よろしくないと言う権利がございますの……?」
「ないよ」
なぜかエースが即座に答えた。
婚約者のいる女性が、他の男性の髪や瞳の色に合わせたドレスを着るのはいかがなものかと、ミラジェーンは思った。それも王城ともなれば、王家の承認を得たものと見なされるのではないかとも思われた。
ある意味ではそうだが、オリン伯爵が異議を申し立てるのではないかとも考えられた。
ミラジェーンがそんな思考を巡らせていると、ルーシーがにこりと微笑んだ。
「父と愚弟に異論があるのなら、きちんとわたくしに申し立てるなり、ミラさんに似合うドレスを仕立てて贈ればよいのです。もしオリン家の者に何か言われたら、わたくしが着せたと仰ってくださいませ。大丈夫、事実ですから」
「ル、ルーシー様……」
「では、試着させていただきますわね」
ルーシーが立ち上がり、控えていた侍女たちが素早くドレスを抱えた。
ミラジェーンはそのままルーシーの私室へ連れられ、ドレスに着替えさせられ、自身の姿を鏡で確かめる間もなく、応接室へと連れ戻された。
「いかがかしら」
「とてもよく似合っているよ、ミラ」
エースは素早くミラジェーンの足元にかしずき、その手を取って唇を寄せた。
「ちょっと、先に義姉を褒めなさいよ」
「義姉上は兄上に褒めていただけばよろしいでしょう。俺の目にはミラしか映りませんので」
「何なのよ、この気障な義弟は……。男爵、すばらしいお手前です。軽くて動きやすく、そして着替えも手間取らない。こちらのドレスの刺繍は、北部の伝統的な模様をあしらっていますね」
ルーシーはエースを呆れた顔で睨んでから、真面目な表情で男爵へと向き直った。
「さすが未来の王妃殿下。よくご存じでいらっしゃいます。模様のパターンをいくつか用意してございますが、オーロラやスノードロップ、雪の結晶、また幼い淑女向けにはトナカイやもみの木など、かわいらしいものも検討中でございます」
「よろしいかと存じます。その地域ならではの特色を出すことで、旅行中の特別感も増しますし、お土産として購入したがる貴族もいらっしゃると思いますわ。ミラさんはいかがかしら」
ルーシーに話を振られ、ミラジェーンは頷いた。
数歩進み、ドレスの裾をひらりと翻した。
「いただいたブーツは温かく、歩きやすくて素晴らしいですわ。それに見た目ほどドレープも広がりませんね。北部は風が強いですから、歩きやすい点でもよろしいかと。ドロワーズの丈を長くするのもよいかもしれませんわね。膝下で軽く絞り、裾にレースを多めにあしらえば、多少めくれても見た目も損なわれないかと」
「なるほど。そもそもスカートはめくれやすく、寒さもございますからなあ。外側と内側を分けてしまうのは良いお考えかと。参考にさせていただきます」
ブライズ侯爵は食堂へ向かい、エースとミラジェーンは並んで第三温室へ向かった。
温室にはすでに昼食の支度がされており、以前と同じように三段のケーキスタンドには、ケーキではなく肉の詰まったサンドイッチやサラダ、挽肉と根菜を詰めたパイにガレットが並べられていた。
「……なぜケーキスタンドに盛り付けられていますの?」
「運びやすいし、全部同じ場所にあって取りやすいから」
「そうではありますが……」
エースは一番下の段のサンドイッチとサラダを侍女に取り分けさせ、ミラジェーンにも勧めた。
「こちらのサンドイッチ、美味しいですわね」
「うん、先ほど話したインサラータ伯爵の新しいドレッシングを使っているよ」
「お肉にも野菜にも合いますのね」
「香辛料を多めに、やや辛めに味付けしてあるね。値段は……」
「原材料や手間を考えれば妥当ですが、なかなかいいお値段ですわ……」
二人はのんびり雑談しながら食事を終え、その後エースが取り出した北部の男爵からの手紙を一緒に覗き込んだ。
そこには検討中と思われる工事計画が簡潔に記されていた。
基本的には著名な観光地へ向かう行路から順に整備したいという内容であった。
「よろしいかと思いますよ。使用頻度の高い道から整備するのは当然です」
「大きい道から整備されれば、より多くの人が行き来できるしね」
二人は意見を交わしたのち、男爵の待つ城内の応接室へ向かった。
ミラジェーンがエースと共に応接室へ入ると、男爵が立ち上がり、応接セットの向かいに座っていたルーシーも振り向いた。
「ご無沙汰しております、男爵。ルーシー様もいらっしゃいましたのね」
「そうなの。先日試着していただいたドレスの改良版を持ってきてくださったと伺ったから」
「はい。観光中にお召しいただく品ですので、動きやすさと軽さ、それから着替えやすさも考慮しております。また、汚れにくさも重視いたしました。併せて靴もご用意いたしましたので、ルーシー様、ミラジェーン様には、それぞれご試着のうえご感想をいただければと存じます」
男爵がルーシーとミラジェーンの前に差し出したドレスは、それぞれ濃紺と銀色であった。銀色のドレスは、幅広の紫のリボンで胸下を結ぶ作りになっていた。
「先日ルーシー様よりご依頼いただいたガウンと合わせてご着用いただけるよう、デザインいたしました。……ミラジェーン様、いかがでしょうか?」
「……わたくしに、よろしくないと言う権利がございますの……?」
「ないよ」
なぜかエースが即座に答えた。
婚約者のいる女性が、他の男性の髪や瞳の色に合わせたドレスを着るのはいかがなものかと、ミラジェーンは思った。それも王城ともなれば、王家の承認を得たものと見なされるのではないかとも思われた。
ある意味ではそうだが、オリン伯爵が異議を申し立てるのではないかとも考えられた。
ミラジェーンがそんな思考を巡らせていると、ルーシーがにこりと微笑んだ。
「父と愚弟に異論があるのなら、きちんとわたくしに申し立てるなり、ミラさんに似合うドレスを仕立てて贈ればよいのです。もしオリン家の者に何か言われたら、わたくしが着せたと仰ってくださいませ。大丈夫、事実ですから」
「ル、ルーシー様……」
「では、試着させていただきますわね」
ルーシーが立ち上がり、控えていた侍女たちが素早くドレスを抱えた。
ミラジェーンはそのままルーシーの私室へ連れられ、ドレスに着替えさせられ、自身の姿を鏡で確かめる間もなく、応接室へと連れ戻された。
「いかがかしら」
「とてもよく似合っているよ、ミラ」
エースは素早くミラジェーンの足元にかしずき、その手を取って唇を寄せた。
「ちょっと、先に義姉を褒めなさいよ」
「義姉上は兄上に褒めていただけばよろしいでしょう。俺の目にはミラしか映りませんので」
「何なのよ、この気障な義弟は……。男爵、すばらしいお手前です。軽くて動きやすく、そして着替えも手間取らない。こちらのドレスの刺繍は、北部の伝統的な模様をあしらっていますね」
ルーシーはエースを呆れた顔で睨んでから、真面目な表情で男爵へと向き直った。
「さすが未来の王妃殿下。よくご存じでいらっしゃいます。模様のパターンをいくつか用意してございますが、オーロラやスノードロップ、雪の結晶、また幼い淑女向けにはトナカイやもみの木など、かわいらしいものも検討中でございます」
「よろしいかと存じます。その地域ならではの特色を出すことで、旅行中の特別感も増しますし、お土産として購入したがる貴族もいらっしゃると思いますわ。ミラさんはいかがかしら」
ルーシーに話を振られ、ミラジェーンは頷いた。
数歩進み、ドレスの裾をひらりと翻した。
「いただいたブーツは温かく、歩きやすくて素晴らしいですわ。それに見た目ほどドレープも広がりませんね。北部は風が強いですから、歩きやすい点でもよろしいかと。ドロワーズの丈を長くするのもよいかもしれませんわね。膝下で軽く絞り、裾にレースを多めにあしらえば、多少めくれても見た目も損なわれないかと」
「なるほど。そもそもスカートはめくれやすく、寒さもございますからなあ。外側と内側を分けてしまうのは良いお考えかと。参考にさせていただきます」