婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
数時間後、ミラジェーンが第三温室に顔を出すと、いつもより豪勢な食事が用意されていた。
夏ということもあり、温室内には花々が咲き乱れ、日差しもあったが、打ち水をしたらしく空気がしっとりと涼んでいる。
先に着いていたエースが笑顔でミラジェーンを出迎えた。
「殿下、なにかよいことでも?」
「そういうわけじゃないけどね。レディ、どうぞこちらへ」
エースは微笑み、ミラジェーンのために椅子を引いた。
「あの、王族の方にそのようなことをさせるのは」
「俺をレディのエスコートもできない腑抜けにさせないでほしいのだけど」
「……口がお上手ですわね」
「そういうことにしておいてくれ。さあ、食べよう」
テーブルの上には、いつものケーキスタンドではなく、前菜らしいサラダと、ハムとチーズの盛り合わせ、スープにドレッシングが並んでいた。
「ドレッシングどれにする? 君が好きそうなものを三種類頼んだけど」
「……ではこちらの柑橘のものをいただきます」
ミラジェーンはエースにじっと見られながらドレッシングを選び、侍女がサラダに和えるのを待った。
「俺も同じものを」
「暑い日ですから、さっぱりしたお料理が美味しいです」
「口に合ってよかった」
ミラジェーンがサラダを食べ終えると、次いで肉料理が運ばれてきた。
「殿下、運んでいただくのでしたら、食堂のほうがよろしかったのでは?」
「今日は食堂は父上たちが使っているんだよ。オリン公爵が来ていてね」
「まあ、そうでしたの。では後ほどご挨拶に参りますわ」
「んー、それは向こうが気まずいから止めたほうがいいかな」
ミラジェーンが首を傾げたが、エースはそれ以上何も言わなかった。
「そういえば、引き継ぎは順調?」
「はい。滞りなく……と言いたいところですが、項目が多くてなかなか進まず。冬……次の春までには終えられるとは思いますが」
「引き継ぎ中にも君の仕事が増えているからねえ。まあ、増やしているのは俺なんだけど」
エースはニヤッと笑った。
「頼っていただけるのはありがたいことですわ」
「そう言ってくれると助かる」
「ですが、北部の観光地開発などは殿下のお仕事ですよね? もちろん、ドレスについての相談くらいは構いませんが……」
「バレた? ついね。北部を言い訳に、君にいろいろなドレスを着せていたら楽しくて。今日のドレスもよく似合っているよ」
ミラジェーンは呆れたような顔で肉を切り分けた。
今日は薄い紫と青のレースを何枚も重ねたシミューズドレスを着用している。胸の下を銀のリボンで結び、羽織っていた薄手のガウンも銀色だ。
「ありがとうございます。たしかにこのドレスは着心地が良く、動きやすくて助かります」
「義姉上も楽だからといって、最近はそればかりを着ているね。一部の古風な貴族からは不評らしいけど、最近は茶会で他の令嬢にも試着を依頼して広めているみたいだ」
「あまり広めると北部の特産としての魅力が薄れるのでは?」
「そこは義姉上の腕の見せどころだな」
肉料理を食べ終え、口直しのゼリーのあと、ミラジェーンが思わず目を輝かせるほど美しく盛られたフルーツが運ばれてきた。
「まあ、素敵」
「喜んでくれて嬉しいよ。インサラータ伯爵がフルーツのサラダを開発中だそうでね。試食ってことで君にも感想を聞かせてほしい」
「かしこまりました、殿下」
侍女がミラジェーンの皿に盛り付けが崩れないように取り分けていく。見慣れないフルーツについて、運んできた料理人が説明を加えた。
「こちらはライチというフルーツでして、東南諸国産の品です。独特な香りがございますが、甘みが強く食べやすいかと存じます。こちらはマンゴーと呼ばれる品でして……」
「どれも見目麗しいですし、お味も美味しいですわ」
ミラジェーンが目を輝かせて感想を述べる様子を、エースは微笑みながら眺めていた。
彼の皿のフルーツは最初からほとんど手をつけられていない。
「美味しいです……いけませんわね、手が止まりません」
「どんどん食べてくれていいよ。せっかく彼らが君のために用意したのだから、残したらもったいない」
「ありがとうございます……殿下もお召し上がりになってくださいね?」
「ミラの笑顔でお腹いっぱいなんだ」
「お上手ですわね」
くすくすと笑うミラジェーンに、エースは少し泣きそうな顔をした。
「ミラジェーン・ブライズ侯爵令嬢」
「はい、エース殿下」
「俺は第二王子としても、一人の男としても、常に君の味方だ。それを覚えておいてほしい」
「……どうなさったのですか、突然」
「お願いだから」
エースの真剣な顔に、ミラジェーンは口ごもった。しかし、ただごとではなさそうだと感じ、すぐに頷いた。
「わかりました、殿下。覚えておきます」
「うん。必ずだよ」
ミラジェーンが戸惑いながらも頷くと、エースも微笑んで頷いた。
夏ということもあり、温室内には花々が咲き乱れ、日差しもあったが、打ち水をしたらしく空気がしっとりと涼んでいる。
先に着いていたエースが笑顔でミラジェーンを出迎えた。
「殿下、なにかよいことでも?」
「そういうわけじゃないけどね。レディ、どうぞこちらへ」
エースは微笑み、ミラジェーンのために椅子を引いた。
「あの、王族の方にそのようなことをさせるのは」
「俺をレディのエスコートもできない腑抜けにさせないでほしいのだけど」
「……口がお上手ですわね」
「そういうことにしておいてくれ。さあ、食べよう」
テーブルの上には、いつものケーキスタンドではなく、前菜らしいサラダと、ハムとチーズの盛り合わせ、スープにドレッシングが並んでいた。
「ドレッシングどれにする? 君が好きそうなものを三種類頼んだけど」
「……ではこちらの柑橘のものをいただきます」
ミラジェーンはエースにじっと見られながらドレッシングを選び、侍女がサラダに和えるのを待った。
「俺も同じものを」
「暑い日ですから、さっぱりしたお料理が美味しいです」
「口に合ってよかった」
ミラジェーンがサラダを食べ終えると、次いで肉料理が運ばれてきた。
「殿下、運んでいただくのでしたら、食堂のほうがよろしかったのでは?」
「今日は食堂は父上たちが使っているんだよ。オリン公爵が来ていてね」
「まあ、そうでしたの。では後ほどご挨拶に参りますわ」
「んー、それは向こうが気まずいから止めたほうがいいかな」
ミラジェーンが首を傾げたが、エースはそれ以上何も言わなかった。
「そういえば、引き継ぎは順調?」
「はい。滞りなく……と言いたいところですが、項目が多くてなかなか進まず。冬……次の春までには終えられるとは思いますが」
「引き継ぎ中にも君の仕事が増えているからねえ。まあ、増やしているのは俺なんだけど」
エースはニヤッと笑った。
「頼っていただけるのはありがたいことですわ」
「そう言ってくれると助かる」
「ですが、北部の観光地開発などは殿下のお仕事ですよね? もちろん、ドレスについての相談くらいは構いませんが……」
「バレた? ついね。北部を言い訳に、君にいろいろなドレスを着せていたら楽しくて。今日のドレスもよく似合っているよ」
ミラジェーンは呆れたような顔で肉を切り分けた。
今日は薄い紫と青のレースを何枚も重ねたシミューズドレスを着用している。胸の下を銀のリボンで結び、羽織っていた薄手のガウンも銀色だ。
「ありがとうございます。たしかにこのドレスは着心地が良く、動きやすくて助かります」
「義姉上も楽だからといって、最近はそればかりを着ているね。一部の古風な貴族からは不評らしいけど、最近は茶会で他の令嬢にも試着を依頼して広めているみたいだ」
「あまり広めると北部の特産としての魅力が薄れるのでは?」
「そこは義姉上の腕の見せどころだな」
肉料理を食べ終え、口直しのゼリーのあと、ミラジェーンが思わず目を輝かせるほど美しく盛られたフルーツが運ばれてきた。
「まあ、素敵」
「喜んでくれて嬉しいよ。インサラータ伯爵がフルーツのサラダを開発中だそうでね。試食ってことで君にも感想を聞かせてほしい」
「かしこまりました、殿下」
侍女がミラジェーンの皿に盛り付けが崩れないように取り分けていく。見慣れないフルーツについて、運んできた料理人が説明を加えた。
「こちらはライチというフルーツでして、東南諸国産の品です。独特な香りがございますが、甘みが強く食べやすいかと存じます。こちらはマンゴーと呼ばれる品でして……」
「どれも見目麗しいですし、お味も美味しいですわ」
ミラジェーンが目を輝かせて感想を述べる様子を、エースは微笑みながら眺めていた。
彼の皿のフルーツは最初からほとんど手をつけられていない。
「美味しいです……いけませんわね、手が止まりません」
「どんどん食べてくれていいよ。せっかく彼らが君のために用意したのだから、残したらもったいない」
「ありがとうございます……殿下もお召し上がりになってくださいね?」
「ミラの笑顔でお腹いっぱいなんだ」
「お上手ですわね」
くすくすと笑うミラジェーンに、エースは少し泣きそうな顔をした。
「ミラジェーン・ブライズ侯爵令嬢」
「はい、エース殿下」
「俺は第二王子としても、一人の男としても、常に君の味方だ。それを覚えておいてほしい」
「……どうなさったのですか、突然」
「お願いだから」
エースの真剣な顔に、ミラジェーンは口ごもった。しかし、ただごとではなさそうだと感じ、すぐに頷いた。
「わかりました、殿下。覚えておきます」
「うん。必ずだよ」
ミラジェーンが戸惑いながらも頷くと、エースも微笑んで頷いた。