婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
「殿下、婚約破棄の手続きの方法をご存じでいらっしゃいます?」


 エースが振り向くと、秘書官がすっと前に出た。


「まずはブライズ侯爵家とオリン公爵家の家長の承認が必要でございます。次いで国王陛下のご承認を賜り、最後に貴族会への報告を済ませれば、婚約は正式に破棄となります」

「つまり、エリオット本人の了解はいらないんだな」


 エースが問いかけた。

「要否で申し上げれば、不要でございます。そもそも婚約という制度は家同士で取り決めるものであり、当人の意思は関係ございません」

「だよなあ」


 だからこそエースは婚約手続きではなくミラジェーン本人に求愛を続け、結果オリン公爵家に先を越された。それを思い出し、エースはわずかに苦い表情を浮かべた。


 そんなエースの様子には気づかず、ミラジェーンは考え込んでいた。

 婚約破棄の意志を伝えるのならまずは両親だ。

 次いでオリン公爵家へ赴くのがよいと思われた。おそらく両親も同伴した方がよいのだろう。きっとオリン公爵夫妻は反対するだろうから。


「エリオット様にも婚約破棄の意志をお伝えしようと思います」


 エースは苦い表情をミラジェーンに向けた。


「あまり勧めないけど」

「エリオット様はそもそも私のことを好いておられませんし、家のことにも頓着なさっていないご様子ですし、婚約を破棄すれば清々なさるのでは?」

「そう単純なものでもないと思うけどね」


 渋い返事をするエースに、ミラジェーンは首を傾げ、秘書官が手元の書類をめくった。


「こちらにエリオット氏の発言として『あいつは金を産むニワトリだからさ、オリン公爵家で丁重にしつけてやらないとね』とありますが、主、睨まないでください。わたくしは読み上げただけでございます。ブライズ嬢個人の考えや気持ちを汲むとは考えられません」

「えっと、つまり?」

「あえてきつい言い方をいたしますが、この手の男は飼い犬に手を噛まれたようなものだと判断するのではないでしょうか」


 エースが思い切り嫌な顔をして頷いた。

 ミラジェーンも眉間にしわを寄せたが、エースと秘書官の表情から、それが真実なのだろうと判断するしかなかった。


「殿下、わたくし、不愉快ですわ」

「そりゃそうだ」


 口をへの字にしたミラジェーンを見て、エースは苦笑した。


「失礼ではありませんこと?」

「うん、失礼極まりないことだと思うよ」

「どうしてくれましょうか」

「婚約破棄を満面の笑みで告げてやればいい」

「それでエリオット様は反省なさいますか?」

「しないだろうね」

「しないんですか」


 ミラジェーンは不機嫌な顔でエースを見たが、彼は相変わらず苦笑するばかりだった。

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