婚約者にバカにされ続けた侯爵令嬢が「ざまぁ」するに至るまで
 ミラジェーンが馬車に乗ろうとすると、扉が開き、エースが降りてきた。


「殿下、何をなさっていますの?」

「心配だから来ちゃった」

「来ちゃったって……」


 呆れた面持ちのミラジェーンに、エースは手を差し伸べた。


「お手を、レディ」

「……ありがとうございます、殿下」


 ミラジェーンが馬車に乗り込むと、手前に座っていたエースの秘書が無表情で会釈をした。

 最後に侍女が乗り込むと、馬車はがたごとと走り出した。


「書類、預かろうか」

「ありがとうございます。……持っていたくなかったので助かります」


 ミラジェーンは握りしめてしわの寄っていた書類入れをエースに渡した。エースはすぐに秘書に渡し、中身を確認させた。


「問題ございません。帰城後、すぐに申請を回し、次回の貴族会にて承認させます」

「承認されない場合もあるのでしょうか?」


 ミラジェーンが不安そうに問うと、エースは首を横に振った。


「ないよ。俺がそんなことさせない……ってかっこよく言いたいけど、父が押印してるからね。今さらひっくり返らないよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「承認されたらブライズ侯爵を通じて連絡するから、まあそれまではゆっくり休んでほしい。引き継ぎもしなくて良くなったし、他に頼んでいた仕事も今は落ち着いているし」

「はい、そうさせていただきます」


 疲れた面持ちのミラジェーンに、エースはわずかに眉をひそめたが、何も言わなかった。

 やがて馬車はブライズ侯爵邸へと到着した。


「お疲れさまミラ。ブライズ侯爵家は今年の夏はバカンスには行くのかい?」

「いえ、父の仕事も忙しいですし、今年は王都でゆっくりする予定です」

「そう。月末に王家主催のパーティがあるから、誘っていいかな」

「楽しみにしております」


 エースは頷いて馬車から降りる。ミラジェーンを邸宅までエスコートし、ブライズ侯爵に挨拶をして秘書と共に帰っていった。


 ミラジェーンは食事の際に両親に顛末を説明し、倒れ込むようにベッドに入った。

 そのまま夢も見ずに翌朝まで眠り続けた。
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