きっと、夏のこと

ご機嫌で裏方部屋に帰る私に


「練習、俺も行くから」


なんていうヤスの声は聞こえなかった。


それからのイベントは意外と忙しくなって、牧田さんと話す時間も、会う時間もほとんどなかった。


もちろん、ギターを練習する時間もなかった。




最終日、少し時間ができて、裏方部屋に行くと牧田さんしかいなかった。


私にはなぜか、これが最後のチャンスみたいな気がしていた。


「牧田さん、お疲れ様です!あの、練習できて楽しかったです!」


私の一生懸命な言葉をまっすぐ受け取ってくれる牧田さんが好きだ。


ニコって嬉しそうに笑って、


「初日しかできなかったね、」


っていう。


残念なのか事実を言ってるだけなのか社交辞令なのか、全く分からないけど、私は精一杯に残念そうな顔をした。


「ギターの本、貸そうか?今日持ってきてるんだけど」


そんなことをいう牧田さんの予想外の言葉に私はわかりやすく反応した。




そんな私をギターがほんとうに上達したい子って牧田さんが勘違いしてるのなんかわかっていた。





「ありがとうございます!」





本を返しに牧田さんに会いに行ける。


少なくとももう一回牧田さんに会える口実ができたことが何よりも嬉しかった。
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