雨のち花憑き


六限目の理科。
天井で回る古い扇風機が、ぬるい空気をかき回す音だけが教室に響い
ていた。


教科書の内容なんて、さっぱり頭に入ってこない。
鈴花は頬杖をつきながら、開け放たれた窓の外をぼんやりと眺めていた。


「⋯⋯暗いなぁ」
 

ついさっきまであんなに晴れていたのに、空の端からじわりと、墨汁をこぼしたような黒い雲が這い出してきている。


風が止まり、世界が肺の奥まで重苦しくなるような湿気を帯び始めた。


隣の席の男子が、消しゴムのカスを指で弾いて遊んでいる。
教壇では先生が、火成岩の種類について淡々と説明を続けている。
 

そんなことを考えているうちに、終業を告げるチャイムが鳴り響いた。


その瞬間、堰を切ったように教室が騒がしくなる。


「ねー、雨降りそうじゃない!? 早く帰ろ!」


「駅前でカラオケ行かない? 雨降ったら移動面倒だしさ」
 


友人たちが次々と鞄を掴んで、嵐から逃げるように教室を飛び出していく。

陽菜も、申し訳なさそうに手を振った。


「鈴花、ごめん! 今日、日直だよね。お先に失礼しちゃう!」


「あはは、いいよ。気をつけてね」


笑顔で見送ったあと、鈴花は一人、誰もいなくなった教室に取り残された。


まずは黒板消しだ。
クリーナーに吸い込まれるチョークの粉の音だけが、不自然に大きく聞こえる。



⋯⋯早く終わらせて、帰らなきゃ。


 
急かされるように、日直日誌を書き始める。


『六月五日。欠席者なし。掃除、丁寧に行いました。明日の目標、忘れ物をしない⋯⋯』
 
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