雨のち花憑き

再縁



昇降口に辿り着いた瞬間、鈴花は思わず息を呑んだ。
外の世界は、薄暗いベールに包まれたように白く煙っていた。


まだ小雨だ。
けれど、その雨は一粒一粒が重く、粘り気を持っているように感じられた。


鈴花は慌てて、昇降口の端にある「善意の傘立て」へと駆け寄った。
忘れ物や、急な雨のために学校が貸し出している予備の傘が、いつもなら何本か突き刺さっているはずの場所だ。


しかし、そこにあったのは、空っぽの、ひどく寂しげなプラスチックの筒だけだった。


「⋯⋯すっからかん。みんな、借りて行っちゃったのかな」


まるで、最初から自分に貸す傘など存在しないと拒絶されているような、妙な疎外感。

鈴花は唇を噛み、カバンを頭の上に乗せて空を仰いだ。


「⋯⋯まぁ、今はまだ小雨だし」


自分を鼓舞するように声を出し、一歩、アスファルトの校庭へと踏み出す。


走り出した瞬間、肌を撫でる雨は、驚くほど冷たかった。
けれど、走ることで体温が上がり、頬を打つ水滴が火照った肌に心地よく馴染んでいく。


ふと見上げると、小雨だったはずの空が、瞬く間に暗転していた。


雷鳴さえ聞こえない。
ただ、この世の終わりのような深い沈黙と共に、空から巨大な水の壁が落ちてきた。


「⋯⋯っ!? ひどすぎるっ!」


前が見えない。
大雨という言葉では足りないほどの、暴力的な水流。


鈴花は、逃げ場を求めて周囲を見渡した。


その時、白く塗り潰された視界の奥に、不自然なほど鮮やかな「朱色」が浮かび上がった。


神社⋯⋯?


背中を押し出されるような強い風に煽られ、鈴花は吸い寄せられるように、古びた石段へと足を向けた。

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