くっ殺女騎士は魔王の執愛から逃れられない
十七話
ライに言われるがまま代わる代わる別のドレスへと着替えていく。
その度にかけられる世辞にも慣れてきた。
布と体の隙間がないドレスに身を包めば、
「うん、体のラインを強調するようなシルエットが似合うね。アイビーはスタイルもいいしあたりまえかな」
と褒められる。
ローウエストのドレスを着れば、
「大人っぽさと可愛さが共存してて、とてもいいね」
と笑う。
ヒップを強調したデザインを着ると、
「どんなドレスも着こなすアイビーはすごいね。でも少し子どもっぽいかもしれないなぁ」
と気に入らなかった理由も告げてくる始末だ。
アイビーは多すぎるドレスに目を回しながら、げんなりしていた。
「こちらで最後ですから」
「……わかりました」
見かねた店員に囁かれ、アイビーは気を引き締めた。
最後に着せられたのはハイウエストの普段着用ドレスだ。
薄い水色で染められたそれは澄み渡る空を彷彿させる。
特徴的なのはウエストからストンと落ちるスカートだろう。舞踏会用よりも中の布地が明らかに少ない。
余計な装飾のないドレスに彩りを足すように、スペンサーと呼ばれる丈の短いジャケットをあわせ、顎の下でひもを結ぶ帽子を被る。
店員が満足そうに頷き、ライとアイビーを隔てていた衝立をどけた。
ソファーに腰掛けて待っていたライの目が見開かれる。
「いかがですか?」
「とっても素敵だね!」
「……動きにくい」
「もー、そんなこと言わない」
慣れないドレスにアイビーは顔をしかめてしまう。
しかし、アイビーとは対照的にライは満面の笑みを浮かべている。
ライが店員に目配せをすると、心得たと言わんばかりに頭を下げていた。
どうやら会計などはすでに終わっているようだ。
計画的な状況にアイビーは眉を顰める。
「これでは戦えないだろう」
「その恰好で戦われても僕、困るなぁ」
「なら」
「言っとくけど、帰るまで君はその恰好のままだからね」
ライの言葉にアイビーは黙り込んでしまう。真一文字に結ばれた口元に、納得がいかないという思いがありありと浮かんでいた。
視線も顔ごと逸らしてしまったアイビーに、ライは小さく笑った。
「そんなあからさまに嫌そうな顔しなくてもいいのに」
「元々剣が腰にないのにも違和感があるんだ。しかたないだろう」
「そうだね。でも少しは慣れないと。これからドレスを着る機会が多くなるんだから」
「どういう意味だ?」
「さぁね。さて、それじゃあアイビー、お手をどうぞ」
アイビーの視界に入るように移動したライが、右手を差し出す。
それはさながら舞踏会にエスコートする紳士のようだ。
ライは少年の見た目をしているというのに、その仕草が様になっている。
アイビーはほんのりと頬を染め、唸るように言葉を絞り出した。
「……一人で歩ける」
「こーら。こういう時は手を取るんだよ。知ってるでしょ?」
「……知ってはいる。だが、こうして私に手を差し出したのは貴殿が初めてだ」
「え、はじめて?」
「あぁ。だから、その、なんだ……お手柔らかに頼む」
じわじわとつま先から羞恥が上り、ライの顔をまともに見られない。
アイビーは熱くなった顔を誤魔化すように自分よりもだいぶ小さいライの手に自分のそれを重ねる。
途端、ポンッと音が聞こえた。
エスコートのために置いた手が握られると、ライの手のひらがアイビーの手よりも大きくなっているのがわかった。
ライの温かな体温に指先が震える。
目の前に突如として現れた端整な顔に、アイビーはわずかに肩を強ばらせた。
「っ、い、きなりだな、貴殿のそれは」
「うん、僕もびっくりしてるところ」
ライが困ったように笑う。
しかしすぐに衝撃から戻ってきたようで、アイビーの腰へと手を回した。
簡単に引き寄せられ、肩や腰がライの体に触れる。
「近い」
「わざとだから気にしないで」
「余計気になるが!?」
「じゃあそのまま僕のこと考えててよ」
ライが楽しげに目を細める。三日月型に変わった瞳を食い入るように見つめていると、彼の唇が頬に触れた。
何が起きたのかわからず目を丸くしていると、ライはますます笑みを深くする。
「それじゃあご飯食べに行こうか」
その度にかけられる世辞にも慣れてきた。
布と体の隙間がないドレスに身を包めば、
「うん、体のラインを強調するようなシルエットが似合うね。アイビーはスタイルもいいしあたりまえかな」
と褒められる。
ローウエストのドレスを着れば、
「大人っぽさと可愛さが共存してて、とてもいいね」
と笑う。
ヒップを強調したデザインを着ると、
「どんなドレスも着こなすアイビーはすごいね。でも少し子どもっぽいかもしれないなぁ」
と気に入らなかった理由も告げてくる始末だ。
アイビーは多すぎるドレスに目を回しながら、げんなりしていた。
「こちらで最後ですから」
「……わかりました」
見かねた店員に囁かれ、アイビーは気を引き締めた。
最後に着せられたのはハイウエストの普段着用ドレスだ。
薄い水色で染められたそれは澄み渡る空を彷彿させる。
特徴的なのはウエストからストンと落ちるスカートだろう。舞踏会用よりも中の布地が明らかに少ない。
余計な装飾のないドレスに彩りを足すように、スペンサーと呼ばれる丈の短いジャケットをあわせ、顎の下でひもを結ぶ帽子を被る。
店員が満足そうに頷き、ライとアイビーを隔てていた衝立をどけた。
ソファーに腰掛けて待っていたライの目が見開かれる。
「いかがですか?」
「とっても素敵だね!」
「……動きにくい」
「もー、そんなこと言わない」
慣れないドレスにアイビーは顔をしかめてしまう。
しかし、アイビーとは対照的にライは満面の笑みを浮かべている。
ライが店員に目配せをすると、心得たと言わんばかりに頭を下げていた。
どうやら会計などはすでに終わっているようだ。
計画的な状況にアイビーは眉を顰める。
「これでは戦えないだろう」
「その恰好で戦われても僕、困るなぁ」
「なら」
「言っとくけど、帰るまで君はその恰好のままだからね」
ライの言葉にアイビーは黙り込んでしまう。真一文字に結ばれた口元に、納得がいかないという思いがありありと浮かんでいた。
視線も顔ごと逸らしてしまったアイビーに、ライは小さく笑った。
「そんなあからさまに嫌そうな顔しなくてもいいのに」
「元々剣が腰にないのにも違和感があるんだ。しかたないだろう」
「そうだね。でも少しは慣れないと。これからドレスを着る機会が多くなるんだから」
「どういう意味だ?」
「さぁね。さて、それじゃあアイビー、お手をどうぞ」
アイビーの視界に入るように移動したライが、右手を差し出す。
それはさながら舞踏会にエスコートする紳士のようだ。
ライは少年の見た目をしているというのに、その仕草が様になっている。
アイビーはほんのりと頬を染め、唸るように言葉を絞り出した。
「……一人で歩ける」
「こーら。こういう時は手を取るんだよ。知ってるでしょ?」
「……知ってはいる。だが、こうして私に手を差し出したのは貴殿が初めてだ」
「え、はじめて?」
「あぁ。だから、その、なんだ……お手柔らかに頼む」
じわじわとつま先から羞恥が上り、ライの顔をまともに見られない。
アイビーは熱くなった顔を誤魔化すように自分よりもだいぶ小さいライの手に自分のそれを重ねる。
途端、ポンッと音が聞こえた。
エスコートのために置いた手が握られると、ライの手のひらがアイビーの手よりも大きくなっているのがわかった。
ライの温かな体温に指先が震える。
目の前に突如として現れた端整な顔に、アイビーはわずかに肩を強ばらせた。
「っ、い、きなりだな、貴殿のそれは」
「うん、僕もびっくりしてるところ」
ライが困ったように笑う。
しかしすぐに衝撃から戻ってきたようで、アイビーの腰へと手を回した。
簡単に引き寄せられ、肩や腰がライの体に触れる。
「近い」
「わざとだから気にしないで」
「余計気になるが!?」
「じゃあそのまま僕のこと考えててよ」
ライが楽しげに目を細める。三日月型に変わった瞳を食い入るように見つめていると、彼の唇が頬に触れた。
何が起きたのかわからず目を丸くしていると、ライはますます笑みを深くする。
「それじゃあご飯食べに行こうか」