くっ殺女騎士は魔王の執愛から逃れられない
二十一話
ライによる甘いと見せかけて露ほども甘くない淑女教育を受けること一ヶ月。
ようやくものになってきた淑女の礼や、立ち振る舞いを披露する機会がやってきた。
王城から少し離れた小宮殿で開かれる夜会だ。
ライが管理をしているというその離宮は、魔王領の栄華を見せつけるように絢爛豪華な造りとなっている。
四方を囲む重厚な柱が高い天井を実現させているのだろう。
大広間に蝋燭の揺らめきを受けて豪奢なシャンデリアから広間に煌びやかな明かりが降り注ぐ。
柔らかな火が大理石に反射し、この場をさらに明るくしているようだ。
四隅に置かれたテーブルには数種類のデザートや軽食が並んでいるが、手を付けられた様子はない。
どうやら招待客達は小腹を満たすよりもワイン片手に腹の内を探り合う不毛な談笑に重きを置いているらしい。
会話の中で手を取り合った男女は、二人寄り添ってホールの中心へと向かっていく。
中央に集まった色とりどりの花々に混じった男女は、楽士達の奏でる音楽に合わせてくるくると楽しんでいるようだ。
場慣れした光景に、アイビーは人知れずごくりと息を呑む。
ひっそりとホールの二階から会場内の様子を窺っていたが、生まれて初めて参加する夜会に手のひらが汗ばんでいる。
胃が捻り上げられたようにきりりと痛むのは、コルセットを締め上げられたからか、緊張からか、アイビーにはわからなかった。
「大丈夫。あれだけ練習したんだから。ね?」
「あ、あぁ」
隣でアイビーを覗き込んだのはライだ。
今宵の主役である彼は青年の姿をしており、見慣れない正装に身を包んでいる。
アイビーの顔色が悪いことに気がついたのか、ライが心配そうに眉を下げた。
「もうちょっとで僕たちの出番だよ。歩けそう?」
「あ、あぁ」
頃合いをみて会場へ降りる手筈だが、まだその時は訪れなかった。
戦場でも感じたことのない圧迫感が体を包んでいるようで息苦しい。
なんとかライの腕に縋って立っているが、体は板のようにガチガチだ。
「あはは、駄目そうだね」
「あ、あぁ」
「ちゃんと聞いてないね? まぁ仕方ないか、初めての夜会だもんね」
子どもの駄々っ子を目の当たりにしたように愛おしげな微笑みを浮かべたライが、開いている手をアイビーへと伸ばした。
顎を掬い上げられ、強制的に視線を合わせられる。
「アイビー。僕を見て。そう、いい子。あのね、今夜の武器はそのドレスなんだ」
「武器が、ドレス……?」
「そう。今の君は、この会場の誰よりも強い武器を持ってるんだ。……どう? 元気でた?」
水晶のような瞳に映るアイビーの頬に、ゆっくりだが血の気が戻っていく。
ライの手が離されても、アイビーの顔が俯くことはなかった。
強い意志を宿した藍色の目に、ライは満足げに頷いた。
「ライ」
「なぁに?」
「貴殿には助けられてばかりだな。ありがとう」
「いーのいーの。僕も助けられてるからね。だから僕からも、ありがとうって言わせて?」
「礼を言われることをした覚えはないぞ」
「今僕が青年姿でいられるのも、アイビーのお陰なんだから。ありがとうで間違いないよ」
ね? と首を傾げられると、アイビーはそれ以上何も言えなかった。
「そろそろかな。準備はいい?」
「大丈夫だ」
アイビーが頷くと、ライも同じように頷いた。
二階から大広間へと続く階段まで並んで歩きだすと、楽士達の音楽が止まった。
静まり返った大広間に金管楽器の音が響いた。
ようやくものになってきた淑女の礼や、立ち振る舞いを披露する機会がやってきた。
王城から少し離れた小宮殿で開かれる夜会だ。
ライが管理をしているというその離宮は、魔王領の栄華を見せつけるように絢爛豪華な造りとなっている。
四方を囲む重厚な柱が高い天井を実現させているのだろう。
大広間に蝋燭の揺らめきを受けて豪奢なシャンデリアから広間に煌びやかな明かりが降り注ぐ。
柔らかな火が大理石に反射し、この場をさらに明るくしているようだ。
四隅に置かれたテーブルには数種類のデザートや軽食が並んでいるが、手を付けられた様子はない。
どうやら招待客達は小腹を満たすよりもワイン片手に腹の内を探り合う不毛な談笑に重きを置いているらしい。
会話の中で手を取り合った男女は、二人寄り添ってホールの中心へと向かっていく。
中央に集まった色とりどりの花々に混じった男女は、楽士達の奏でる音楽に合わせてくるくると楽しんでいるようだ。
場慣れした光景に、アイビーは人知れずごくりと息を呑む。
ひっそりとホールの二階から会場内の様子を窺っていたが、生まれて初めて参加する夜会に手のひらが汗ばんでいる。
胃が捻り上げられたようにきりりと痛むのは、コルセットを締め上げられたからか、緊張からか、アイビーにはわからなかった。
「大丈夫。あれだけ練習したんだから。ね?」
「あ、あぁ」
隣でアイビーを覗き込んだのはライだ。
今宵の主役である彼は青年の姿をしており、見慣れない正装に身を包んでいる。
アイビーの顔色が悪いことに気がついたのか、ライが心配そうに眉を下げた。
「もうちょっとで僕たちの出番だよ。歩けそう?」
「あ、あぁ」
頃合いをみて会場へ降りる手筈だが、まだその時は訪れなかった。
戦場でも感じたことのない圧迫感が体を包んでいるようで息苦しい。
なんとかライの腕に縋って立っているが、体は板のようにガチガチだ。
「あはは、駄目そうだね」
「あ、あぁ」
「ちゃんと聞いてないね? まぁ仕方ないか、初めての夜会だもんね」
子どもの駄々っ子を目の当たりにしたように愛おしげな微笑みを浮かべたライが、開いている手をアイビーへと伸ばした。
顎を掬い上げられ、強制的に視線を合わせられる。
「アイビー。僕を見て。そう、いい子。あのね、今夜の武器はそのドレスなんだ」
「武器が、ドレス……?」
「そう。今の君は、この会場の誰よりも強い武器を持ってるんだ。……どう? 元気でた?」
水晶のような瞳に映るアイビーの頬に、ゆっくりだが血の気が戻っていく。
ライの手が離されても、アイビーの顔が俯くことはなかった。
強い意志を宿した藍色の目に、ライは満足げに頷いた。
「ライ」
「なぁに?」
「貴殿には助けられてばかりだな。ありがとう」
「いーのいーの。僕も助けられてるからね。だから僕からも、ありがとうって言わせて?」
「礼を言われることをした覚えはないぞ」
「今僕が青年姿でいられるのも、アイビーのお陰なんだから。ありがとうで間違いないよ」
ね? と首を傾げられると、アイビーはそれ以上何も言えなかった。
「そろそろかな。準備はいい?」
「大丈夫だ」
アイビーが頷くと、ライも同じように頷いた。
二階から大広間へと続く階段まで並んで歩きだすと、楽士達の音楽が止まった。
静まり返った大広間に金管楽器の音が響いた。