くっ殺女騎士は魔王の執愛から逃れられない
二十三話
当たり前のように開けた道を進み、ホールの真ん中へ辿り着くと楽士達の演奏が始まった。
互いに一礼をするとライに手を取られる。
力強く引き寄せられ、互いの胸が密着する。
軽やかにステップを踏みながら、ライが眉を下げた。
「勝手なことしてごめんね?」
「まったくだ。どうして……って言わずとも理解しているつもりだが、言い訳は聞こう」
この一ヶ月の練習の成果か、言葉の節々に不機嫌さはあるものの、アイビーの口元には笑みが浮かんでいる。
表情を取り繕いながら会話をする技量はライには劣ってしまうが、それなりには身についていた。
「君の立場の確立が一番の理由だね。それと、僕の気持ちを信じてもらいたいってところかな」
「やはりそれが理由か。……気持ちを信じるとは?」
「一目惚れだったのは間違いないけど、今は違うよ」
「……そうか。外堀を埋めようとしたというところか」
「人聞き悪いなぁ、まぁそうなんだけど」
楽しげに笑われてしまい、アイビーはそれ以上の文句を声に出すことなく口を噤んだ。
軽やかなステップを踏むたび髪も踊る。
(背中に刺さる視線が痛いな。魔王という物件が、ぽっと出の女にかすめ取られているんだ、当たり前か)
令嬢達からの熱烈な視線を背中に受けながら、アイビーはくるりとターンする。
背中に集中していた目が今度はアイビーの顔へと向いた。
どうやら今度は美醜の品定めをすることに決めたらしい。
「平凡な顔ね」
「これなら私でもチャンスがありそうだわ」
「スタイルも私の方がいいもの」
(わざと聞こえるように言っているんだよな、これは。……まったく、品性の欠片もない)
周りの会話を右から左に流しながら、みっちり仕込まれたステップを飛ばさないようしっかりと足を動かす。
まだアイビーに無意識で踊れるような練度はない。
だからこそ、ライとのダンスに集中しなければ、ステップを踏み間違えてしまいそうだ。
少しでも間違えそうになると、ライが修正してくれる。
リードが上手いというよりも、教鞭を執られているようだ。
お手本のようなステップを踏みながら、ライは微笑みを浮かべた。
「ダンス、上手くなったね」
「踊りやすいようリードしている貴殿に言われてもな」
「リードは男の特権だからね」
茶目っ気たっぷりにウインクをしたかと思うと、アイビーの頬にすり寄ってきた。
令嬢達が息を呑んだ音が聞こえたが、まざまざとライの特別だと見せつけるような行為を受け入れる。
今後の安寧のためだと納得すれば、アイビーからも少しすり寄ることができた。
普段ライを見慣れていないと分からないほどほんの僅かに目を見開かれたが、今は周りに見せつけることが重要だ。
(令嬢達の嫉妬は怖いからな)
幾度となく取り締まったことのある痴情のもつれからのキャットファイト。
それは気が遠くなるほどの惨事だった。
その当事者になることだけは勘弁してほしいと思うぐらいに。
(ライが私を気に入っていると分かれば手出しもされないだろう)
国を超えて婚約者となっているのだから、ライの本気度も伝わっているはずだ。
ライも意図を理解しているようで、アイビーから拒否されないといい笑みを浮かべ、普段よりも五割増しで密着してくる。
「アイビー」
「なんだ」
「今日みたいに普段からひっついてくれてもいいんだよ?」
「必要性がないな。王城まで忍び込んでくる豪胆な令嬢がいるのなら話は変わってくるが……」
「え、ちょっと待って。どういうことを想像してるの?」
「女同士の仁義なき戦いだが」
「ふふっ、なにそれ」
くるくると周りながら答えると、ライがとうとう吹き出してしまった。
すぐに取り繕ったが、一挙一動見逃さないように凝視していた令嬢達の目は誤魔化されないだろう。
小さな黄色い声が聞こえたのがいい証拠だ。
「せいぜい私が刺されないようにしてくれ」
「そこは僕が刺されないか心配するところじゃないかなぁ」
「そうか?」
「そうだよ」
頷きながらも楽しげに笑ったライが、ぐっと背中に回した腕に力を入れた。
彼に合わせて背中を反らすと、タイミング良くジャンッと音楽が鳴り止んだ。
体勢を立て直したアイビーはライの隣に並ぶ。
二人は一瞬だけ視線を絡ませ、同時に頭を下げた。
互いに一礼をするとライに手を取られる。
力強く引き寄せられ、互いの胸が密着する。
軽やかにステップを踏みながら、ライが眉を下げた。
「勝手なことしてごめんね?」
「まったくだ。どうして……って言わずとも理解しているつもりだが、言い訳は聞こう」
この一ヶ月の練習の成果か、言葉の節々に不機嫌さはあるものの、アイビーの口元には笑みが浮かんでいる。
表情を取り繕いながら会話をする技量はライには劣ってしまうが、それなりには身についていた。
「君の立場の確立が一番の理由だね。それと、僕の気持ちを信じてもらいたいってところかな」
「やはりそれが理由か。……気持ちを信じるとは?」
「一目惚れだったのは間違いないけど、今は違うよ」
「……そうか。外堀を埋めようとしたというところか」
「人聞き悪いなぁ、まぁそうなんだけど」
楽しげに笑われてしまい、アイビーはそれ以上の文句を声に出すことなく口を噤んだ。
軽やかなステップを踏むたび髪も踊る。
(背中に刺さる視線が痛いな。魔王という物件が、ぽっと出の女にかすめ取られているんだ、当たり前か)
令嬢達からの熱烈な視線を背中に受けながら、アイビーはくるりとターンする。
背中に集中していた目が今度はアイビーの顔へと向いた。
どうやら今度は美醜の品定めをすることに決めたらしい。
「平凡な顔ね」
「これなら私でもチャンスがありそうだわ」
「スタイルも私の方がいいもの」
(わざと聞こえるように言っているんだよな、これは。……まったく、品性の欠片もない)
周りの会話を右から左に流しながら、みっちり仕込まれたステップを飛ばさないようしっかりと足を動かす。
まだアイビーに無意識で踊れるような練度はない。
だからこそ、ライとのダンスに集中しなければ、ステップを踏み間違えてしまいそうだ。
少しでも間違えそうになると、ライが修正してくれる。
リードが上手いというよりも、教鞭を執られているようだ。
お手本のようなステップを踏みながら、ライは微笑みを浮かべた。
「ダンス、上手くなったね」
「踊りやすいようリードしている貴殿に言われてもな」
「リードは男の特権だからね」
茶目っ気たっぷりにウインクをしたかと思うと、アイビーの頬にすり寄ってきた。
令嬢達が息を呑んだ音が聞こえたが、まざまざとライの特別だと見せつけるような行為を受け入れる。
今後の安寧のためだと納得すれば、アイビーからも少しすり寄ることができた。
普段ライを見慣れていないと分からないほどほんの僅かに目を見開かれたが、今は周りに見せつけることが重要だ。
(令嬢達の嫉妬は怖いからな)
幾度となく取り締まったことのある痴情のもつれからのキャットファイト。
それは気が遠くなるほどの惨事だった。
その当事者になることだけは勘弁してほしいと思うぐらいに。
(ライが私を気に入っていると分かれば手出しもされないだろう)
国を超えて婚約者となっているのだから、ライの本気度も伝わっているはずだ。
ライも意図を理解しているようで、アイビーから拒否されないといい笑みを浮かべ、普段よりも五割増しで密着してくる。
「アイビー」
「なんだ」
「今日みたいに普段からひっついてくれてもいいんだよ?」
「必要性がないな。王城まで忍び込んでくる豪胆な令嬢がいるのなら話は変わってくるが……」
「え、ちょっと待って。どういうことを想像してるの?」
「女同士の仁義なき戦いだが」
「ふふっ、なにそれ」
くるくると周りながら答えると、ライがとうとう吹き出してしまった。
すぐに取り繕ったが、一挙一動見逃さないように凝視していた令嬢達の目は誤魔化されないだろう。
小さな黄色い声が聞こえたのがいい証拠だ。
「せいぜい私が刺されないようにしてくれ」
「そこは僕が刺されないか心配するところじゃないかなぁ」
「そうか?」
「そうだよ」
頷きながらも楽しげに笑ったライが、ぐっと背中に回した腕に力を入れた。
彼に合わせて背中を反らすと、タイミング良くジャンッと音楽が鳴り止んだ。
体勢を立て直したアイビーはライの隣に並ぶ。
二人は一瞬だけ視線を絡ませ、同時に頭を下げた。