くっ殺女騎士は魔王の執愛から逃れられない
六話
ぽんっと目の前に座っていたライの姿が、青年から少年へと戻る。
それは突然で、アイビーが突きつけていた人差し指を力なく下げるには十分なクールタイムだった。
アイビーは綺麗に結い上げられた髪を掻きながらため息をつく。
「なんで今戻った」
「いやぁ、実はこれ、自分でコントロールできなくなっちゃったんだよね」
「阿呆なのか?」
「だってあの姿でいると君たちの王妃がすり寄ってきてうるさかったんだよ。だから自ら子どもの姿をとるようになったんだけど……。上手く戻れなくて、まぁたぶん、一種のトラウマってやつ」
「女性にトラウマのある貴様が、私に一目惚れとはなんの冗談なんだか。少しはマシな嘘がつけなかったのか」
二転三転するライの言動に、アイビーの憤りも勢いをなくしてしまう。
アイビーは呆れたようにまた椅子に腰掛け、足を組む。
その様子に慌てたのはライだ。
「嘘じゃないよ! 僕が初めてほしいって思ったのは君なんだ」
「ロミオトラップには騙されんぞ」
「違うって!」
「一目惚れと告げた後に、私の体質がほしいと言ったんだ。信じられると思うか? まだ被検体だと言われた方が納得できる」
アイビーは冷え切ってしまった紅茶へ手を伸ばし、口に含んだ。
芳醇な香りがふわりと鼻孔をくすぐる。
潤った喉に少し肩の力が抜けた。
(……ここまで言ったんだ。こんなお姫様の扱いじゃなく、捕虜としてこの体を使われるように手配されるだろうな)
ティーカップを置きながら横目でライを確認する。
ぷるぷると震える彼は怒りを抑えているのだろう。
魔王と呼ばれるような男が、アイビーのような小娘になめられて黙っているはずがない。
頬を膨らませたライが、きっと眉尻をつり上げた。
「じゃあこれから君を口説いたら信じてくれるよね」
「……は?」
「これから君はここで暮らすんだし、ゆっくり僕を知ってもらえば好きになってもらえるかなって思ったんだけど」
「正気か?」
「僕に魅了魔法は効かないからね。君に一目惚れしたって信じてもらえるまで頑張るよ」
ライは憤慨するどころかなぜか一目惚れを信じさせようとしてくる。
意味が分からず首を傾げると、アイビーが振り払ったはずの手をもう一度とられてしまった。
先ほどとは違い小さな手で、両手でアイビーのそれを包んでも足りていない。
「君が君の魅力を信じられないなら、僕が信じられるようにしてあげる。だから、君の国が正常に戻るまで僕が口説くことを許して、ね?」
ライがこてんと上目遣いに見上げてくる。
そのあざとい仕草に、アイビーはぐっと言葉を詰まらせた。
威圧感のあった青年の姿よりも、子どもの姿でおねだりをされるほうが心にくる。
中身が大人だと頭では分かっていても、アイビーは断ることができなかった。
「わ、わかった」
「やった! でも今日はもう疲れたでしょ?」
「我が国を正常に戻す方法をまだ聞いていない」
「そうだね、じゃあ明日案内するよ」
「……わかった」
アイビーが渋々頷くと、ライはぴょんっとソファーから下りる。
その様子が年端のいかない子どものそれで、アイビーは思わず頬が和らいだ。
「それじゃあ僕は部屋に戻るね。ちゃんと侍女たちに磨かれてから休むこと! それじゃあおやすみ」
ライが扉から出たと同時に、ドレスに着替えさせてくれた侍女たちが現れる。
一度瞬きをした時には目の前にいたので、アイビーの双眸がこぼれ落ちそうなほど見開かれたのは言うまでもない。
それは突然で、アイビーが突きつけていた人差し指を力なく下げるには十分なクールタイムだった。
アイビーは綺麗に結い上げられた髪を掻きながらため息をつく。
「なんで今戻った」
「いやぁ、実はこれ、自分でコントロールできなくなっちゃったんだよね」
「阿呆なのか?」
「だってあの姿でいると君たちの王妃がすり寄ってきてうるさかったんだよ。だから自ら子どもの姿をとるようになったんだけど……。上手く戻れなくて、まぁたぶん、一種のトラウマってやつ」
「女性にトラウマのある貴様が、私に一目惚れとはなんの冗談なんだか。少しはマシな嘘がつけなかったのか」
二転三転するライの言動に、アイビーの憤りも勢いをなくしてしまう。
アイビーは呆れたようにまた椅子に腰掛け、足を組む。
その様子に慌てたのはライだ。
「嘘じゃないよ! 僕が初めてほしいって思ったのは君なんだ」
「ロミオトラップには騙されんぞ」
「違うって!」
「一目惚れと告げた後に、私の体質がほしいと言ったんだ。信じられると思うか? まだ被検体だと言われた方が納得できる」
アイビーは冷え切ってしまった紅茶へ手を伸ばし、口に含んだ。
芳醇な香りがふわりと鼻孔をくすぐる。
潤った喉に少し肩の力が抜けた。
(……ここまで言ったんだ。こんなお姫様の扱いじゃなく、捕虜としてこの体を使われるように手配されるだろうな)
ティーカップを置きながら横目でライを確認する。
ぷるぷると震える彼は怒りを抑えているのだろう。
魔王と呼ばれるような男が、アイビーのような小娘になめられて黙っているはずがない。
頬を膨らませたライが、きっと眉尻をつり上げた。
「じゃあこれから君を口説いたら信じてくれるよね」
「……は?」
「これから君はここで暮らすんだし、ゆっくり僕を知ってもらえば好きになってもらえるかなって思ったんだけど」
「正気か?」
「僕に魅了魔法は効かないからね。君に一目惚れしたって信じてもらえるまで頑張るよ」
ライは憤慨するどころかなぜか一目惚れを信じさせようとしてくる。
意味が分からず首を傾げると、アイビーが振り払ったはずの手をもう一度とられてしまった。
先ほどとは違い小さな手で、両手でアイビーのそれを包んでも足りていない。
「君が君の魅力を信じられないなら、僕が信じられるようにしてあげる。だから、君の国が正常に戻るまで僕が口説くことを許して、ね?」
ライがこてんと上目遣いに見上げてくる。
そのあざとい仕草に、アイビーはぐっと言葉を詰まらせた。
威圧感のあった青年の姿よりも、子どもの姿でおねだりをされるほうが心にくる。
中身が大人だと頭では分かっていても、アイビーは断ることができなかった。
「わ、わかった」
「やった! でも今日はもう疲れたでしょ?」
「我が国を正常に戻す方法をまだ聞いていない」
「そうだね、じゃあ明日案内するよ」
「……わかった」
アイビーが渋々頷くと、ライはぴょんっとソファーから下りる。
その様子が年端のいかない子どものそれで、アイビーは思わず頬が和らいだ。
「それじゃあ僕は部屋に戻るね。ちゃんと侍女たちに磨かれてから休むこと! それじゃあおやすみ」
ライが扉から出たと同時に、ドレスに着替えさせてくれた侍女たちが現れる。
一度瞬きをした時には目の前にいたので、アイビーの双眸がこぼれ落ちそうなほど見開かれたのは言うまでもない。